← 戻る 賴床行旅

冷たい風と、指先に触れた温もり

冷たい風と、指先に触れた温もり

潮風と喧騒が交差する、花蓮の冬の街角

頬を刺すような冷たい風が、二月の花蓮の街を激しく吹き抜けていた。東北季風という名のそれは、単なる空気の流れではなく、まるで鋭い彫刻刀で岩肌を削り取るような、硬く冷徹な質感を持っている。隣を歩く次男が「パパ、風が僕を追い越していくよ!」と歓声を上げ、わざと足早に駆け出していく。その小さな背中を追いながら、私は長女の手をぎゅっと握りしめた。彼女は太平洋灯会の色とりどりの光に心を奪われ、何度も足を止めては「あっちの灯籠、お星さまが降りてきたみたい」と、きらきらした瞳で夜空を指さしている。東大門夜市へと向かう道すがら、雨上がりのアスファルトが放つ独特の鉱物のような匂いと、屋台から漂う甘辛いソースの香りが混ざり合い、冬の夜の空気に濃厚な彩りを添えていた。家族旅行というものは、いつだって計画通りにはいかない。静寂の中で景色を愛でたかったはずなのに、実際には子供たちの好奇心という名の嵐に翻弄される時間だ。けれど、その騒がしさこそが、旅の輪郭を鮮明にし、記憶に深い刻印を残してくれる。足元で跳ねる水たまりの冷たさ、遠くで聞こえる誰かの笑い声。街全体が、冬の深い眠りから覚めようとする不揃いなリズムで呼吸していた。

境界線を越えて、静寂の繭に包まれる

賑やかな夜市の喧騒を離れ、賴床行旅の入り口に辿り着いたとき、世界の色がふっと塗り替えられた。重厚なドアを開けて一歩中へ足を踏み入れると、外の刺すような冷気が嘘のように消え去り、代わりにしっとりと落ち着いた温度が、疲れた肌を優しく包み込む。ロビーに広がるのは、装飾を極限まで削ぎ落とした潔いコンクリートの空間だ。耳に届くのは、激しい風の咆哮ではなく、低く心地よい静寂。それは、騒がしい日常という名の外衣を脱ぎ捨てて、心地よい沈黙の繭に身を浸すような感覚だった。チェックインの手続きをする間、子供たちは不思議そうに灰色の壁を眺めていた。冷たいはずのコンクリートなのに、計算された照明の当たり方次第で、どこか柔らかい体温を宿しているように見える。ここに来た瞬間、私たちは「観光客」という役割から解放され、ただの「家族」という小さな、けれど確かな単位に戻れたような気がした。オーナー夫妻の温かな眼差しが、旅の緊張をゆっくりと解きほぐしていく。

無機質な城に灯る、家族という名の体温

部屋のドアを開けた瞬間、まず目に飛び込んできたのは、窓の外に広がる淡いブルーの海と、それを縁取る無機質な清水模の壁だった。裸足で踏みしめた床のひんやりとした感触が、足裏から心地よく脳まで伝わってくる。大人はそのミニマルな美しさに溜息をつくけれど、子供たちにとってここは、想像力を刺激する最高の遊び場だった。長女がベッドにダイブし、次男が壁の継ぎ目を指でなぞりながら「ここ、秘密の地図の線みたいだね」と呟く。その様子を見ていると、ふと思った。この硬くて冷たいコンクリートの空間に、私たちの笑い声や、散らばったおもちゃ、そして誰かがこぼしたお菓子の欠片が点在していく。それはまるで、コンクリートの割れ目に静かに根を張り、時間をかけてゆっくりと広がっていく苔のようではないか。無機質な建築という土壌に、家族という有機的な温もりが浸透し、空間全体を柔らかく塗り替えていく。そんな変化が、たまらなく愛おしく感じられた。

ふと、次男が朝食の公正包子を頬張りながら、鼻の頭に小さなパンの欠片を乗せてバランスを取ろうとしていた。それを見た長女が、堪えきれずに吹き出し、部屋中に高い笑い声が響き渡る。完璧な家族の風景なんてどこにもないけれど、この不格好で賑やかな瞬間こそが、この部屋という「城」を完成させていた。館内の図書室で静かに本をめくる大人の時間と、部屋の中で跳ね回る子供たちの時間。その対比さえもが、この旅の贅沢さだった。深い眠りを誘う柔らかいベッドに体を沈めると、外の寒さが遠い世界の出来事のように感じられる。私たちはここで、誰にも邪魔されずに、ただお互いの存在を深く確認し合うことができた。

窓越しの世界、安全な孤独という贅沢

翌朝、まだ薄暗い時間。窓ガラスに結露した白い霧を指で拭うと、そこには二月の太平洋が静かに横たわっていた。冬の海は、夏のような眩い輝きはないけれど、深く、重厚な青色をしている。その青をじっと眺めていると、自分の心のなかの澱が、静かに濾過されていくような感覚に陥る。外はまだ冷たい風が吹き荒れているのかもしれない。けれど、厚い壁に守られたこの部屋の中では、淹れたてのコーヒーの香りがゆっくりと漂い、家族の穏やかな寝息が心地よいリズムを刻んでいる。安全な場所から外の世界を眺める贅沢。それは、孤独であることの心地よさと、誰かと共にいることの安心感が、絶妙なバランスで共存している状態だ。私たちは、この静かな境界線の上に立って、もう一度、外の世界へ飛び出す準備をする。けれど、心の一部はまだ、賴床行旅の灰色の壁に守られた静寂の中に、心地よく取り残されている気がした。

濡れたコンクリートの匂いと、子供たちの笑い声が、今も耳の奥で心地よく鳴っている。

  • 朝食の公正包子の温かさと、心まで解けるティラミスの甘さを、ぜひゆっくりと時間をかけて味わってほしい。
  • 東大門夜市へ向かう道中、あえて地図を閉じ、子供たちが「気になる」と言った名もなき路地へ迷い込む贅沢を。

近くのグルメ・スポット

来成排骨麺

來成排骨麺は花蓮市中正路にある1948年創業の老舗小吃店で、独特の排骨酥(リブスーの唐揚げ蒸し)とコラーゲンたっぷりの豚足が看板です。排骨酥は揚げてから蒸すことで外はカリッとし、甘辛クリアなスープと合わさり、豚足はプリプリとした弾力ある食感。この二品を合わせた組み合わせは、地元の食通や観光客が必ず頼む定番メニューです。店内では内用席とチャイルドシートを用意。2025年に移転して駐車が便利になり、家族や友人との会食に最適です。

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公正包子

公正包子は花蓮市の老舗小吃店で、厚めの甘みある皮が特徴の小籠包で有名です。1個約5台湾ドルで、手作り調味の豚肉餡を包み、パンチが欲しい方は自家製唐辛子ソースを。小籠包以外にも蒸餃、湯包、肉羹麺、酸辣麺、貢丸湯、アイス豆乳、紅茶を取り揃え。2023年末に仁愛街と成功街の角へ移転し、人気の「廟口紅茶」の向かいに。小さな店構えですが地元民と観光客の長蛇の列が絶えず、花蓮に来たら外せない必食スポットです。

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公正街包子店

公正街包子店は花蓮市街の40年以上続く老舗小吃で、厚皮の小籠包と蒸餃が看板です。生地は手で延ばして柔らかくモチモチ、ほんのり甘く、シンプルな味付けの肉汁あふれる豚餡を包みます。蒸餃、湯餃、肉羹麺、酸辣麺、貢丸湯、アイス豆乳、紅茶なども提供。2023年末の移転後も人気は健在で、行列は減りましたが花蓮の必食小吃として外せません。価格も手頃で、小籠包は1個約5〜7台湾ドル、気軽に食べられる手軽さが魅力です。

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周家蒸餃

周家蒸餃小籠包は花蓮市の公正街にある老舗で、50年近くにわたりその場で包んで蒸す蒸餃と小籠包が看板です。3種類の蒸餃、手作り小籠包、酸辣湯、肉羹湯、ルーロー飯など多彩なメニューを取り揃え、24時間営業。朝食、ランチ、ディナー、夜食とどんな時間でも利用できます。蒸餃は10個で約30台湾ドル、小籠包は10個で約40台湾ドルと手頃で味も鮮やか。長蛇の列が日常で、地元民と観光客双方の必訪グルメスポットです。

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