「だって、この紅油抄手が正解だって言ったのは君でしょ!」
「信じられない。本当に全部食べたの? 胃袋どうなってんのよ」誰かが呆れたように笑い、袋に入った点心の刺激的な香りが部屋いっぱいに広がった。私たちは麗翔酒店のベッドの上に、夜市で買い込んだ戦利品を散乱させていた。「賭けてもいいけど、明日の朝、絶対誰か後悔して起き上がれないよね」「いいじゃん。そういうのが旅でしょ。っていうか、さっきの地図の読み方、あれはひどかった。おかげで迷路みたいな路地を三回もぐるぐる回ったし」「あはは!でも、あの路地の奥にあった変な看板、面白かったでしょ」互いに足を引っ張り合い、小さなミスを笑い飛ばす。そんな不格好な会話が、心地よいノイズとなって部屋を埋めていた。
喧騒のあとに訪れる、静かな水面のような時間
外は十一月の花蓮。少しだけ肌寒くなった夜風が、窓の隙間からかすかに忍び込んでくる。ついさっきまでいた東大門夜市の、あの熱気と油の匂い、そして人々の話し声が混ざり合った奔流から切り離された瞬間、世界は急に静まり返った。まるで激しく波立っていた水面が、ふっと凪いだときのような感覚だ。
私たちが身を置いているのは、フランスの庭園をテーマにしたというモダンな客室。足元に触れる厚手のカーペットが、外の世界の硬いアスファルトの記憶をゆっくりと消し去っていく。リノベーションされたばかりの清潔な空間には、どこか気品のある静寂が満ちていた。ベッドに体を沈めると、上質なガチョウの羽毛が私の輪郭を優しく包み込み、重力から解放される。心地よい沈み込み。それは、自分という個体が、誰かと共有する大きな流れに溶け出していく感覚に似ている。
ふと、バスルームに目を向けると、そこには太平洋を望む浴槽があった。お湯に浸かると、皮膚の表面張力がほどけていくのがわかる。窓の外に広がるのは、深い藍色に染まった海。十一月の夜の海は、音もなく、ただそこに在る。贅沢な設備があるから心地よいのではなく、ただ「ここにいていい」という感覚が、お湯の温度と共に身体の隅々まで浸透していく。深夜三時にトイレまで歩くとき、裸足で触れるタイルのひんやりとした温度が、心地よい緊張感を思い出させてくれた。部屋の隅で小さく鳴る、エアコンの低いハム音。それが、この空間に流れる静寂に奥行きを与えている。私たちは、互いに何も言わなくても、この静かな水底のような場所で、ただ一緒に呼吸をしていた。
表面張力が切れたあとの、本当の話
「ねえ、本当はさ。今回の旅、来る前は少し不安だったんだ」部屋の明かりを落とし、間接照明だけが淡く灯る中、隣に座った友人がぽつりと呟いた。昼間の賑やかな口調は消え、声のトーンが一段低くなる。「不安? 何に」「ないんだよね、どこにも。自分が本当にフィットする場所って。だから、こうやって誰かと一緒にいても、どこか別の周波数で動いてる気がして」もしかすると、それはこの街の空気が、隠していた本音を引き出したのかもしれない。私は何も答えず、ただ隣でサイダーの缶を小さく鳴らした。正解を出す必要はない。ただ、その不安という形の欠落を、そのままにしておく。それが今の私たちにとって、一番誠実な距離感だという気がした。「まあ、でも。このホテルのベッド、最高に気持ちいいからいいか」「……ふふ。そういうところで切り上げるよね、君は」また少しだけ、笑い声が戻ってきた。それは、深い海からふわりと泡が昇ってくるような、静かで優しい時間だった。
窓の外では、十一月の夜風が静かに街の灯りを揺らしていた。
- 麗翔酒店から徒歩圏内の東大門夜市で、地元の原住民料理に挑戦して、互いの好みの違いを笑い合うのがおすすめ。
- 十一月の早朝、少し冷えた空気の中で、ホテルの窓から太平洋の深い青色を眺める時間を大切に。