オレンジ色の迷宮へ、小さな冒険者が飛び込んだ瞬間
10月の宜蘭に降り立つと、しっとりとした湿り気を帯びた空気が、まるで古い記憶のように肌にまとわりついてきた。車を降りた瞬間、次男が「あ!大きなレゴの壁がある!」と歓声を上げて駆け出した。視線の先にあるのは、礁溪晶泉丰旅の象徴である鮮やかなオレンジ色の格子状の外壁だ。大人の目には洗練されたモダンな建築デザインに見えるが、子供の目には、そこはきっと秘密基地への入り口か、あるいは巨大なハニカム構造の迷路に映ったのだろう。
ロビーに足を踏み入れると、外の喧騒がふっと遠のき、心地よい冷房の温度と、かすかに漂うアロマの香りが旅の緊張をゆっくりとほどいていく。チェックインを待つ間、次男は格子の隙間から外を覗き込み、「あのおじさんの帽子、面白いね」と誰にともなく報告していた。その横で長男は、もらったウェルカムドリンクのストローを器用に操りながら、静かにこの空間を観察している。スタッフの方々の温かい微笑みと、ふかふかのソファの感触。家族それぞれのリズムが、このオレンジ色のフィルターを通ることで、ゆっくりと一つの旅のテンポに重なっていくような気がした。
空と水が溶け合う場所で見つけた、世界で一番小さな宝物
屋上のインフィニティプールに辿り着いたとき、子供たちの歓声が秋の高い空に突き抜けた。目の前に広がるのは、どこまでも澄んだ青い水面と、その向こうにぼんやりと浮かぶ亀山島のシルエット。次男は「お水が空に流れ出してる!」と大興奮で、水際まで突っ走っていく。水面に反射する10月の柔らかな光が、子供たちの瞳の中でダイヤモンドのようにキラキラと跳ねていた。
プールの中で、長男と次男はどちらが長く潜っていられるかという、人生において今この瞬間が最も重要なはずの真剣な勝負に没頭していた。結果的に、どちらも3秒持たずに「ぷはーっ!」と顔を出し、お互いのずぶ濡れの顔を見て爆笑し合う。そんな単純で、けれど純粋なやり取りが、どうしてこんなに愛おしいのだろう。ふと気づくと、私はプールサイドの椅子に深く腰掛け、遠くの山々を眺めていた。10月の風は肌に触れると少しひんやりとしていたが、それがかえって温かいお湯の心地よさを際立たせていた。
ここでひとつ、小さな事件が起きた。次男が自分の足の指を指して「見て!魚がいた!」と大声で叫んだのだ。家族全員で覗き込むと、そこにあるのはただのふっくらした子供の足指。私たちは顔を見合わせて笑った。優雅なリゾートステイというよりは、賑やかな騒動の連続だったけれど、こうした「どうしようもない瞬間」こそが、後で思い出すときのメインディッシュになるのだと思う。子供たちの笑い声が、プールの青い水面に波紋のように広がっていく。それは、大人の計算では決して辿り着けない、純粋な幸福の形だった。
静寂の湯船に身を委ね、ただの「私」に戻る時間
夜、ようやく子供たちが深い眠りに落ちた。部屋の中には、規則正しい寝息だけが静かに響いている。さっきまで戦場のように騒がしかった空間が、嘘のように静まり返る。私はゆっくりと、客室にある半露天の温泉浴槽へと足を向けた。
裸足で踏みしめるタイルのひんやりとした感触が心地よく、お湯を溜める音が静寂の中に心地よいリズムを刻んでいた。浴槽に身を沈めた瞬間、「ふう」と深い溜息が漏れる。10月の夜風が肩に触れ、熱いお湯とのコントラストが、凝り固まった背中の筋肉をゆっくりと解きほぐしていく。もらった浴衣の、少し厚みのある安心感のある質感を指先でなぞってみる。孤独とは寂しいことではなく、自分を取り戻すための大切な「呼吸」のようなものかもしれない。誰かの親であり、誰かの社員である前に、ただの自分に戻れる場所。
ハッピーアワーでいただいた赤ワインの深い赤色が、今の私の心の色に重なる。喉の奥に残るかすかな渋みと、温泉の柔らかな湯気が、意識をゆっくりと心地よいまどろみへと誘っていく。明日になればまた、「お腹すいた!」という叫び声で目が覚めるだろう。けれど、今のこの静寂があるからこそ、私はまた彼らの騒がしさを心から愛せるのだと思う。湯気とともに、今日の出来事がゆっくりと夜空に溶けていく。完璧な旅ではなかったけれど、十分すぎるほど満たされていた。ただそれだけのこと。けれど、それが一番大切なことなのだと思う。
眠った子供の頬に、ほんの少しだけ、温かい湯気の香りが残っていた。
- 屋上のインフィニティプールで、遠くに見える亀山島をどっちが先に見つけるか、親子で競争してみてください。
- 子供たちが寝静まった後、半露天風呂で夜風に当たりながら、自分へのご褒美にワインを一杯だけ。