5月の宜蘭は、空気がしっとりと重く、まるで温かいヴェールに包まれているかのような湿度がある。街を歩けば、海から運ばれてきた潮風と、どこからか漂ってくるユリの花の甘い香りが混ざり合い、東部特有の野性的な春の匂いが鼻腔をくすぐった。家族での旅は、いつだって計画通りにはいかない。誰かが靴下を片方なくし、誰かが急に機嫌を損ねる。けれど、そんな「兵慌馬乱」な騒がしさこそが、後になって一番鮮やかに思い出す、旅の彩りになるのかもしれない。
家族の心に刻まれた、五つのきらめき
オレンジ色の格子外壁:駅からの道を歩いていると、不意に視界に飛び込んできた鮮やかな色彩。夕暮れ時の空を切り取ったような、あるいは巨大な竹籠を丁寧に編み上げたような、不思議な質感の建物だった。一番上の子が「あそこ、大きなオレンジ色の箱みたい!」と歓声を上げて指差したとき、目的地に辿り着いた安心感よりも先に、この場所が持つ独特のリズムに心を奪われた気がした。
半露天の温泉浴槽:礁溪晶泉丰旅の客室で、暖かい空気からほんの一歩外へ踏み出した瞬間に肌を刺す、5月の少し冷たい風。けれど、その直後に肩まで浸かったお湯の熱さが、凝り固まった心身に深く染み込んでいく。かすかに漂う硫黄の香りと、お湯が溢れる心地よい音だけが響く静寂の中で、末っ子が「お魚さんがいる!」と大声を上げた。よく見るとそれは自分の足の指だったけれど、そんな小さな勘違いさえ、この温度の中では愛おしい風景に変わる。
屋上のインフィニティプール:水面と空の境界線が溶け合い、どこまでがプールでどこからが世界なのか分からなくなる感覚。陽光を反射してダイヤモンドのように煌めく水面と、遠くにうっすらと浮かぶ亀山島が、まるで誰かが海に置いていった忘れ物のようだった。お母さんが、ふと遠くを見つめて「ここだけ時間がゆっくり流れているね」と呟いたとき、子供たちの騒がしさが、心地よいBGMのように耳に届いた。
朝食の新鮮な魚料理:高級感あふれるレストランで、プレートから立ち上がる白い湯気と、鼻をくすぐる潮の香り。口に入れた瞬間にほどける身の柔らかさと、素材本来のほんのりとした甘みが広がった。お父さんが「これは本物の海の味だ」と感心していたけれど、子供たちはソースを口の周りに塗りたくって、夢中で頬張っていた。完璧な食事というよりは、みんなが満足そうに笑い合うその光景こそが、一番のご馳走だった。
藍染めの浴衣:少しざらりとした生地の感触と、体にまとわりつく心地よい重み。大人がゆったりと寛ごうとしている横で、真ん中の子がそれを「スーパーヒーローのマント」だと思い込み、廊下を全力で駆け抜けていった。私はそれを追いかけながら、自分が履いているスリッパが左右逆であることに気づかなかった。後で子供たちに鋭く指摘されたとき、気取った大人の顔が崩れて、みんなで笑い転げた。そんな、ちょっとした格好悪さが、旅の記憶を深く刻んでくれる。
バルコニーのタイルに残った、小さな濡れた足跡。
- 5月の宜蘭は湿度が高いため、薄手の服を重ね着して、その時の気分で温度を調節するのがおすすめです。
- 礁溪晶泉丰旅の屋上プールでは、あえて何もしない時間を10分だけ作り、空の色が変わる瞬間を眺めてみてください。