3月の宜蘭は、まだ肌を刺すような冷たさが残っていた。誰が一番にロビーに辿り着くかというくだらない賭けをしていたけれど、結局全員が方向感覚を失い、迷路のような道で右往左往。ようやく辿り着いた重いガラスドアを押し開けると、湿った土の匂いと、村却國際溫泉酒店の洗練されたアロマが混ざり合い、鼻の奥を心地よく刺激した。
23階の「EAST 23」。目の前に並ぶ懐石料理の繊細な彩りに、一瞬だけ「大人の旅」を気取ってみた。けれど、口に入れた魚の脂が体温でとろける快感に、誰かが「うまっ!」と野蛮に叫んだ瞬間、作法なんていう殻はあっけなく崩れ去った。グラスの中で揺れる深い赤ワインの色が、僕らのくだらない笑い声に溶けて、夜の景色に滲んでいく。
部屋に備え付けられた二つの湯船。どちらが先にこの「美人湯」に浸かるかで、まるで国家予算でも決めるかのような激しい議論が巻き起こった。「お湯が跳ねてるぞ!掃除の人に怒られる!」という鋭いツッコミが飛ぶけれど、肌にまとわりつく熱い湯の温度が心地よくて、結局は全員で笑いながら、白い湯気に包まれて溶けていった。
星空バーに漂う、揚げ物の香ばしい匂い。カクテルグラスの縁に触れる指先がひんやりとしていて、それが心地よい。僕らはそこで、「次こそは完璧な計画を立てよう」なんて、お互いにありえないと分かっている約束を交わした。信じられないだろうけど、あそこで僕らは人生で一番真面目な顔をして、不可能な未来を語り合っていた。
朝6時の部屋。カーテンの隙間から差し込む光は淡いブルーで、世界がまだ深い眠りの中にいるようだった。ずっしりと重い布団にくるまり、昨夜の喧騒が嘘のように静まり返った時間。この絶対的な静寂があるからこそ、またあいつらの騒々しい声が聞きたくなる。そんな矛盾した心地よさに、深く息を吐いた。
裸足で踏みしめたタイルの、芯まで冷たい感覚。バスルームまでのわずか数歩が、夢心地の頭には果てしなく遠く感じられた。大きなあくびをひとつして、鏡に映ったひどい寝顔を見てふっと笑う。豪華な設備よりも、そんな飾らない瞬間こそが、この旅で一番の贅沢だったのかもしれない。
員山の桐花祭。山道を歩けば、白い花びらが雪のように舞い落ち、視界を白く染めていく。その幻想的な風景に気を取られていた誰かが、派手に足を滑らせて転んだ。その様子を腹を抱えて爆笑しながら、靴の先に付いた小さな白い花びらを眺める。土の匂いと、春の風が頬を撫でる感覚が、心地よく肌に馴染んでいた。
帰り道、車内に満ちていたのは心地よい疲労感だった。それは、冬の間に硬く閉じていた種が、ふいにパチンと割れて、小さな芽を出したときのような、静かな解放感。不完全で、めちゃくちゃで、だからこそ心地いい距離感。僕らはきっと、また次の「不完全な計画」を立てて、どこかへ向かうのだろう。
窓の外、白い花びらが一枚だけ、シートベルトに静かに引っかかっていた。
- 23階の懐石料理は、作法なんて忘れて全力で味わい尽くしてほしい。
- 部屋のダブル湯船で、誰が一番長く浸かっていられるか競い合ってみて。