真夜中、誰が最初に「空腹」という白旗を上げるか
指先がかすかに凍えている。空調の低いハム音が、静まり返った部屋の隅で、まるで心臓の鼓動のように一定のリズムを刻んでいた。村却國際溫泉酒店の行政套房に足を踏み入れたとき、まず感じたのは、自分の足音が厚い絨毯に吸い込まれて消えていく、その奇妙な静寂だった。天井が高く、部屋の端から端まで歩くのに、意識して足を動かさなければならないほどの距離がある。そんな贅沢すぎる空間に、私たちは三人で身を投じた。
一月の宜蘭は、空気が湿っていて、肌にまとわりつくような冷たさがある。窓の外では、冬の風が建物の隙間を通り抜け、低い口笛のような音を立てていた。私たちは、誰が一番先に「お腹が空いた」と認めるかという、静かな賭けをしていた。それはプライドのような、あるいは、この完璧に整えられた空間に、あえて不純物を混ぜたくないという、子供じみた抵抗のようなものだった。けれど、結局に負けたのは私だった。深夜二時。胃のあたりに小さく空いた空白が、無視できない重さを持ってそこに居座っていたからだ。
私たちは厚手のコートを羽織り、夜の街へ踏み出した。ロビーを通り抜け、外に出た瞬間、太平洋から流れ込む塩気を含んだ風が鋭く頬を叩いた。コンビニまでの短い道のり。濡れたアスファルトが街灯を反射して、黒い鏡のように足元に広がっている。その冷たい空気の中で、私たちは肩を寄せ合い、誰が一番滑稽な格好で歩いているかを言い合いながら、プラスチックの袋に詰め込まれた、ジャンクな夜食を買い集めた。
贅沢なリネンに散らばる、ジャンクな幸福の欠片
「ねえ、信じられないけど、さっきのイースト23での懐石料理、あれだけ完璧に食べたはずなのに、どうして今この揚げ鶏が世界で一番贅沢なご馳走に見えるんだろうね」
ベッドの上に、コンビニの袋をぶちまける。ガサガサという、この部屋の格調とはおよそ不釣り合いな音が、静かな室内に心地よく反響した。私たちは、真っ白なシーツの上に、遠慮なく茶色の紙袋とプラスチックの容器を並べた。最高級のリネンに、油の染みがつくかもしれないという小さな不安。けれど、その背徳感こそが、今の私たちには最高のスパイスだった。
「それこそ、この部屋の広さの使い道は、深夜にコンビニ飯を広げるためだったんじゃない? むしろ正解。完璧なプランだよ」
「言い訳が上手いな。まあいいけど。ほら、この地元の銘菓、食べてみて。甘すぎるけど、冬の夜にはちょうどいい気がする」
私たちは、互いに食べ物を口に運びながら、とりとめもない話を始めた。誰がいつ、どのタイミングで人生の方向を間違えたかとか、昔付き合っていた、今となっては名前さえ思い出せない誰かのこと。懐石料理のときは、背筋を伸ばして、料理の美しさに合わせて振る舞っていた。けれど、今は違う。足は投げ出し、服は乱れ、口の周りには油がついている。
会話は、水のように形を変えて流れていく。あるときは激しくぶつかり合い、あるときは静かに淀み、気づけば深い場所まで潜り込んでいた。表面張力でなんtank保っていたはずの「大人の振る舞い」が、このジャンクな食事と、深夜という魔の時間によって、ゆっくりと溶け出していく。私たちは、互いの欠落を埋め合うのではなく、その欠落をそのままにして、隣に座っていた。それが、一番心地いいと感じたから。
満たされた胃袋と、凪のような静寂の訪れ
最後の一口を飲み込んだとき、部屋には再び静寂が戻ってきた。けれど、それは最初の方にあった、よそよそしい静寂ではない。使い古した毛布のような、柔らかくて、少しだけ重たい静寂だ。テーブルの上に残された空の容器と、散らばったナプキン。それらが、私たちがここで確かに時間を共有したという、唯一の、そして最も誠実な証拠のように見えた。
私は、洗面所へ向かった。裸足で踏んだタイルの温度は、心地よくひんやりとしていて、意識を現実へと引き戻してくれる。鏡に映る自分の顔は、少しだけ緩んでいた。さっきまで浸かっていた、あのナトリウム濃度が高く、滑らかな美人湯の感触が、まだ肌の表面に薄い膜のように残っている。その膜が、外の世界の冷たさと、私の内側の熱を、緩やかに隔ててくれていた。
ベッドに戻ると、友人の一人がすでに、深い眠りに落ちていた。規則正しい呼吸の音。それが、どんな音楽よりも正確なリズムで、この部屋の空白を埋めている。私は、窓の外を見た。暗闇の向こうに、冬の梅の花が咲いているのかもしれない。その香りは夜風に乗って、かすかに、本当にかすかに、部屋の中にまで届いている気がした。
何かを解決する必要はない。答えを出す必要もない。ただ、この不完全な夜が、そのまま流れていけばいい。私たちは、この旅で何かを見つけるために来たのではなく、ただ、自分たちがここにいてもいいのだと、確認し合うために来たのかもしれない。そう思うと、心地よい眠気が、じわじわと足先からせり上がってきた。
月明かりが白いシーツに降り注ぎ、私たちは心地よい眠りの海へとゆっくりと沈んでいった。
- 羅東のコンビニで、地元の人しか手に取らないような不思議な味のお菓子を直感で選んでみる。
- 高級なリネンの上に、あえて安価なスナック菓子を広げて、心地よい背徳感に浸る。