陽光とジャムの香り、賑やかな朝の食卓
焼きたてのパンが放つ、少し焦げた香ばしい匂いで目が覚める。凱旋星光酒店の朝食会場は、外から差し込む光が白く飛び跳ねていて、まるで世界全体に明るすぎるフィルターをかけられたみたいだった。上の子は、皿いっぱいに色鮮やかなフルーツを盛り付けては「全部食べる!」と誇らしげに宣言し、下の子は、パンにジャムを塗りすぎることに全神経を集中させている。その小さな指先が、甘い香りに包まれて忙しく動いていた。大人は、淹れたてのコーヒーから立ち上る熱い湯気をぼんやりと眺めながら、今日どこへ向かうべきかをゆっくりと考えていた。窓の外には、八月の深い青色をした海がどこまでも広がっていて、その境界線が陽炎でゆらゆらと揺れている。子供たちがフォークをカチャカチャと鳴らす賑やかな音と、遠くで聞こえる波の音が、心地よい不協和音のように重なっていた。完璧に整った静寂よりも、こういう、少しだけ騒がしく、体温を感じる朝の方が、家族という形を正しく定義してくれる気がする。それはまるで、穏やかな潮が満ちてくるように、心に充足感が広がっていく時間だった。
粘りつく指先と、潮風に溶ける葱油餅
ホテルを出て、海沿いの道を歩く。アスファルトから立ち上がる熱気が、足の裏からじわりと伝わり、空気が肌にまとわりつく。海濱公園まで歩く道すがら、下の子がふいに「海の中には誰が住んでるの?」と、不思議そうに聞いてきた。正解なんてないけれど、私たちは一緒に想像することにした。途中で買った黄記葱油餅は、外側がカリッとしていて、中はじゅわっと熱い油が溢れ出す。それを頬張ると、葱の香ばしさが鼻に抜け、同時に潮風の塩気が唇に残った。子供たちの指先は、油とジャムでベタベタになり、白い服には小さな汚れがついたけれど、それがなんだろう。むしろ、その消えない汚れこそが、この旅の最も誠実な記録なのだと感じた。暑さで意識が少し朦朧とする中、波打ち際で追いかけっこをする子供たちの笑い声だけが、鮮やかな色彩を持って耳に残っている。それはまるで、真っ白な紙に落とした一滴のインクが、ゆっくりと、けれど確実に外側へ滲んでいくような、緩やかで贅沢な時間の流れだった。
深夜の廊下と、冷たいジュースの静寂
子供たちが泥のように深い眠りについた後、部屋に訪れるのは濃密な静寂だ。ふと喉が渇いて、凱旋星光酒店の二十四時間利用できるドリンクコーナーへ向かうことにした。廊下を歩く自分の足音が、いつもより大きく、鋭く響く。深夜のホテルは、昼間の喧騒が嘘のように、静かな呼吸を繰り返していた。冷たいジュースをグラスに注ぐとき、氷がぶつかり合うカランという小さな音が、静まり返った空間に心地よく突き刺さった。部屋に戻り、カーテンを少しだけ開けると、夜の海が黒いベルベットのように重厚に広がっていた。時折、白い波頭が月光を反射して、銀色の鱗のように光る。ベッドのシーツは、洗い立ての清潔な匂いがして、肌に触れる感触が驚くほど滑らかだった。「明日になればまた、お腹すいた!という叫び声でこの静寂は破られるだろうな」と、一人で小さく微笑む。けれど、この一瞬だけは、自分という個体が、台東の夜に静かに溶け込んでいく感覚があった。欠けている部分があるからこそ、そこに新しい記憶が流れ込んでくる。そんな気がして、私はゆっくりと目を閉じた。
窓の外で、波が砂浜を洗う音が、ずっと一定のリズムで続いていた。
- ぜひ海濱公園の近くで、焼きたての葱油餅を。指が汚れるまで食べるのが正解です。
- 凱旋星光酒店の屋上テラスから、八月の星空を。子供と一緒に、名前のない星座を探してみてください。