プラスチックの冷たい感触。下の子がぎゅっと握りしめているホテルのカードキーが、期待と緊張で指先から小さく震えている。チェックインを済ませ、客室へと向かう廊下。足を踏み出すたびに、厚いカーペットがふかふかと足首までを優しく飲み込んでいく。静寂が支配する空間に、子供たちの弾むような話し声だけが、色鮮やかな水滴のように点々と落ちていった。
家族旅行というのは、いつだって予測不能だ。誰かが急に泣き出し、誰かが好奇心に任せて走り出し、そして誰かが疲労に溜息をつく。そんな不協和音さえも、南紀白浜マリオットホテルという大きなクッションが、静かに、そして深く吸収してくれるような気がした。ロビーに漂うかすかなシトラスの香りと、窓の外に広がる白浜の開放的な景色が、張り詰めていた心をゆっくりと解きほぐしていく。
家族というチームで集めた、五つの記憶の断片
特大サイズの白いバスローブ:パイル地のずっしりとした厚みと、洗い立てのリネンの清潔な香り。下の子が袖を通すと、まるで白い大きな繭に包まれたみたいに、小さな指先さえも見えなくなってしまう。裾が床を擦る「シュルシュル」という心地よい音が、静かな廊下にリズムを刻んでいた。一番最初に「見て!お化けみたい!」とはしゃぎ出したのは、下の子だった。
温水プールの湯気と外気の温度差:肌を刺す2月の凛とした冷気と、全身を包み込む温かい水の抱擁。その境界線で白く舞い上がる湯気が、視界を幻想的にぼんやりと遮る。上の子は最初、水温を疑って指先だけを慎重に浸していたけれど、一度潜ればもう出たがらなかった。冷たい風に吹かれて真っ赤に染まった頬を、私は愛おしく眺めていた。
コートに張り付いた梅の花びら:淡いピンク色の、薄い膜のような繊細な質感。梅まつりの帰り道、紺色のコートの肩に、一枚だけ花びらがひっそりと張り付いていた。冷たい風に混じって、甘くて少し酸っぱい、春の訪れを告げる香りが鼻をくすぐる。ふとそれに気づいて、「あぁ、もう春が来たね」と小さく呟いたのは、私だった。
エレベーターの金属ボタン:指先に伝わる、ひんやりとした硬い感触と、磨き上げられた鏡のような光沢。階数表示が変わるたびに、微かな振動が足裏から心地よく伝わってくる。上の子が「僕が全部押していい?」と得意げに主張し、目的の階まで何度もボタンを連打していた。その小さな手の誇らしげな動きを、エレベーターの中の静寂が優しく包み込んでいた。
朝食の地元の果物:舌の上で弾ける、冷たくて濃密な甘み。溢れ出した果汁が指にまとわりつき、白いテーブルに小さな水滴が点々と広がっていく。パンケーキを帽子にして遊ぼうとした下の子を、上の子が「食べ物で遊んじゃダメだよ」と、少し大人びた口調でたしなめる。そんな賑やかな喧騒さえも、レストランに降り注ぐ明るい光の中では、心地よい家族の旋律に聞こえた。最後には、家族全員が同じように、甘い幸せに満ちた顔をしていた。
窓の外に広がる深い青色の海が、白いシーツにゆっくりと溶け出していく時間。
- 朝一番の、まだ誰も歩いていない白良浜の砂の冷たさを、ぜひ裸足で確かめてみてください。
- 子供たちにバスローブを着せて、あえてゆっくりと廊下を散歩する時間を楽しむのがおすすめです。