誰が夜食なんて欲しがったのか
指先に残る、屋上ジャグジーのぬるま湯の感触。HOTEL SANSUI NAHA 波之上の湯の最上階で、私たちは夜の那覇の空気を吸い込みながら、ある「賭け」をしていた。ディナーの琉球料理が豪華すぎて、もう誰一人として夜中にお腹が空くはずがない、という賭けだ。結果、私たちは全員負けた。深夜1時、誰からともなく「何か口に入れたい」という言葉が漏れたとき、私たちは互いの敗北を認め合い、笑いながら部屋を出た。国際通りまで歩く道中、1月の那覇は意外と冷たい。17度という気温は、沖縄に慣れていない体には十分な刺激だった。コンビニの自動ドアが開いた瞬間の、あの人工的な冷気と、レジ袋がカサカサと鳴らす乾いた音。私たちは、まるで禁じられた品を調達する共犯者のように、地元の菓子や飲み物を詰め込んだ。帰り道、冷えた指先をコートのポケットに押し込みながら、心地よい疲労感と、これから始まる「秘密の宴」への期待感で、胸のあたりが小さく震えていた気がする。
食べながら口にした、とりとめないこと
「ねえ、さっきの初詣のとき、あんた完全に迷子になってたよね」
エグゼクティブツインルームの床に直接座り込み、コンビニで買ったサーターアンダギーを頬張りながら、友人が口を開いた。私たちはベッドの上ではなく、あえて冷たいタイルの感触が伝わる床を選んでいた。その方が、なんだかキャンプにでも来ているような気分になれるから。
「違うよ、あれはあえて遠回りして、波上宮の空気感を味わっていただけ。っていうか、あんたこそおみくじの結果見て、絶望した顔してたじゃん」
「ちょっと、あれは秘密だってば! 誇張しすぎ。でもさ、本当は今回の旅行、もっと『意識高い系』にしようって決めてたよね。結果的に、夜中に床に座って揚げ菓子食べてるし。最高に私たちらしいっていうか、もう笑うしかないよね」
「いいじゃん。計画通りにいかないのが旅の醍醐味でしょ。それにしても、この部屋の静けさ、いいよね。外の喧騒が遠くの方で鳴ってるのがわかる」
私たちは、互いの失敗を笑い合い、誰が一番「旅のプラン」を無視したかを競い合った。口の中に広がる砂糖の甘さと、油の香ばしさ。それは、高級なコース料理よりもずっと、私たちの今の気分にフィットしていた。笑いすぎて、喉の奥が少しヒリつく。その感覚さえも、この旅の正解なのだと感じた。
胃袋が満たされた後の、凪のような時間
袋の中身が空になり、会話のテンポも自然と落ちていく。部屋の中には、エアコンが静かに空気を回す低いハム音だけが残った。私たちはそのまま、しばらくの間、誰とも口をきかずにいた。窓の外には、那覇の街の灯りが、まるで海に散らばった宝石のように点滅している。1月の夜風が、時折、窓の隙間から密やかな囁きのように入り込んでくる。もこもこの白いタオルに体を包み、ふかふかのベッドに体を沈めると、指先に残っていた冷たさが、ゆっくりと体温に溶けていくのがわかった。誰かが小さくあくびをした。その音が、静まり返った空間に心地よく響く。何も解決していないし、明日からの予定も相変わらず曖昧なままだ。けれど、この心地よい空白こそが、私たちが求めていた「自由」だったのかもしれない。ただそこにいていい。ただ、お腹いっぱいで眠い。そんな単純な幸福感が、重たい布団のように私たちを優しく包み込んでいた。
街の灯りがゆっくりと消えていくのを、まぶたの裏で眺めていた。
- 地元のコンビニで買える、揚げたてのサーターアンダギーとさんぴん茶のセット
- 夜食のあとに、温かいハーブティーで胃を落ち着かせる贅沢な時間