← 戻る Hotel Cocktail Stay Naha

部屋の青に、指先だけが温かかった

部屋の青に、指先だけが温かかった

「ここ、本当にカクテルの中に入ったみたいだね」

君がそう言って、壁の鮮やかな色彩に指先でそっと触れた。
「ちょっと派手すぎるかもしれないな」
僕は照れ隠しにそう答えたけれど、実際にはこの不自然なほどの色彩に、凝り固まった心がゆっくりと解きほぐされていくのを感じていた。
「いいじゃん、たまにはこういう非日常も」
君がいたずらっぽく笑って、広々としたベッドに飛び込む。その瞬間、部屋の空気が小さく震え、甘い香りがふわりと舞い上がった。

滲んでいく境界線と、色彩の抱擁

県庁前駅からホテルまで歩く12分間、5月の那覇の空気は、湿ったタオルのように肌にまとわりついていた。潮の香りと、どこか遠くで咲いているバラの濃厚な匂いが混じり合い、呼吸するたびに肺の奥がしっとりと濡れる。そんな熱帯の気配を脱ぎ捨てて飛び込んだHotel Cocktail Stay Nahaの客室は、現実を塗りつぶすような強烈なカクテルカラーに満ちていた。

その色は、上質な和紙の繊維にインクがゆっくりと滲んでいくように、僕たちの間にあった小さな緊張感を溶かしていった。最初は「派手だ」と感じていたはずなのに、時間が経つにつれて、その色彩が僕たちの輪郭を曖昧にしていく。正解を探し合うような会話ではなく、ただそこに在るという感覚だけが、濃い顔料のように部屋に充満していた。

特に、ダブルルームの広々としたベッドが、僕たちに奇妙な自由をくれた。隣にいるのに、手を伸ばせば届くけれど、あえて伸ばさない。その空白の距離が、心地よい。シーツのひんやりとした感触と、君の柔らかな体温が、その空白の中でゆっくりと混ざり合っていく。

ふと、かっこいい感じで壁に寄りかかろうとしたけれど、不運にも照明のスイッチを押し込んでしまい、部屋が真っ暗になった。一瞬の沈黙の後、私たちは同時に吹き出した。暗闇の中で、君の笑い声だけが鮮明な周波数となって響く。完璧じゃないけれど、それでいいという安心感が、そこにはあった。

ラウンジで飲んだハイビスカスティーの、少しだけ酸っぱい後味が、まだ舌に残っている。ちんすこうの、あのざらりとした甘い粒子が指先に残っていた。オープンキッチンから聞こえてくる、シェフが食材を切る規則的なリズムや、グラスが触れ合う小さな音が、心地よいBGMのように遠くで鳴っている。

僕たちは、お互いのことをすべて理解し合えたわけではない。それでも、この色彩の空間に身を委ねている間だけは、分からないままで隣にいることが、最高の贅沢だと思えた。東シナ海を望む高層階から見下ろした街の灯りが、まるで溶け出した宝石のようにぼやけて見えたのは、きっと視力が落ちていたからではなく、心の境界線が少しだけ緩んでいたからだと思う。

夜の静寂に、二人の呼吸だけが静かに重なり合っていた。

  • 深夜、バーでシグネチャーカクテルを頼んで、あえて言葉少なに夜景を眺めてみて。
  • 国際通りまでゆっくり歩いて、地図にない細い路地の匂いを一緒に探してみて。