真夜中の空腹に、誰が抗えるだろうか
七月の新北、肌にまとわりつくような重い湿気が、街全体を深い霧のように包み込んでいた。エアコンの冷気に心地よく麻痺し、思考さえも緩慢になっていたはずなのに、誰かがふと「お腹空いた」と呟いた瞬間、私たちの心地よい停滞は終わりを告げた。外はきっと、アスファルトが夜になっても昼間の熱を執拗に吐き出しているはずだ。私たちは、ある種の賭けをした。誰が一番先に「やっぱり暑いからやめよう」と折れるかという、旅先特有の根拠のない意地を張り合うゲームだ。結局、全員がその誘惑に負け、サンダルをぺたぺたと鳴らして外へ出ることになった。
板橋凱撒大飯店を後にし、ロビーの自動ドアが開いた瞬間、ぬるい夜の空気が壁のように押し寄せてきた。けれど、不思議とそれが不快ではなかった。街灯のオレンジ色が、湿った路面にぼんやりと滲み、夜の街を幻想的に彩っている。コンビニの自動ドアが開いた瞬間の、あの人工的で完璧な冷気。私たちはまるで砂漠でオアシスを見つけた旅人のような顔をして、棚にある「正解」ではないけれど、今の気分にぴったりなジャンクフードを、競い合うようにカゴに放り込んだ。
砕けるポテトチップスと、不完全な告白
「ねえ、見てよ。このホテルのシーツ、真っ白。ここにポテチのカスを落としたら、明日チェックアウトの時にどうなると思う?」
広々とした板橋凱撒大飯店のファミリールーム。その贅沢な空間の真ん中で、私たちはコンビニの袋を広げ、わざと不格好な宴会を始めた。高級感あふれる真っ白なリネンの上に、色鮮やかなスナック菓子の袋が散らばる。その不調和さが、かえって私たちの心を解きほぐしていく。
「いいじゃん、それが旅の味だよ。っていうか、さっきのルート、完全に間違ってたよね?君が『こっちが近道』って言ったせいで、私たちは十分間、熱帯雨林みたいな路地を彷徨ったわけだけど」
「いいじゃん、冒険だよ。それに、あの路地裏で見かけた奇妙な看板、面白かったでしょ」
「全然面白くないし。っていうか、私たち、今回の旅行は『大人な旅』にするって決めたはずだよね?頂上のインフィニティプールでシャンパンを飲み、優雅に夜景を眺めるっていう計画はどこへ消えたの」
「あー、あれね。結局、プールに行くまでが遠すぎて、誰一人として水着に着替える気力がなかったもんね。結果的に、このパジャマ姿でポテチを頬張っている今が、一番『私たち』らしい気がする」
「確かに。あ、この飲み物、冷たすぎて喉が痛い。でも最高」
誰かが笑い、誰かがそれに被せて文句を言う。ポテトチップスの乾いた咀嚼音と、氷がグラスに当たるカランという音が、部屋の中に心地よく響く。洗練されたインテリアが、私たちのくだらない会話を優しく吸収してくれていた。完璧すぎる空間に、自分たちの不完全さをぶちまける快感。それはどんな豪華なディナーよりも贅沢な、私たちだけの特権だったのかもしれない。
満たされた胃袋と、心地よい空白
袋の中身が空になり、会話のテンションもゆっくりと凪いでいく。部屋の中には、エアコンの一定な低い唸りと、遠くを走る車の走行音だけが残った。さっきまであんなに騒いでいたのが嘘のように、深い静寂が降りてくる。お腹がいっぱいになると、心まで少し重くなって、思考がゆっくりと溶け出していく感覚。もこもことした白い羽毛布団に体を沈めると、肌に触れるリネンのひんやりとした感触が、火照った体を静めてくれた。
隣では、誰かがすでに規則正しい寝息を立て始めている。私たちは、きっと明日もまた、計画通りにいかない一日を過ごすだろう。暑さに文句を言いながら迷子になり、結局は一番近くの店で食事を済ませる。けれど、そんな不器用な時間の積み重ねこそが、後で思い出した時に一番鮮やかな色をしているという気がする。天井を見上げながら、自分が今、見知らぬ街の、高い場所にある心地よい繭の中にいることを実感していた。孤独という器官を誰もが持っているけれど、今はその隙間を、共有したジャンクフードの味が優しく埋めてくれている。そんな夜があってもいい。むしろ、そういう夜にこそ、本当の旅の意味が隠れているのかもしれない。
窓の外で、夜の雨が静かに降り始めた音がした。
- 台湾のコンビニで買える、甘じょっぱい風味のパイナップルケーキ風スナック
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