← 戻る ホテルサンバレー那須

冷たい指先を温め合った、あの空白の数分間

冷たい指先を温め合った、あの空白の数分間

凍てつく駅前から始まる、不協和音の行進

右手の指先から、じわりと感覚が消えていく。那須塩原駅に降り立った瞬間、肺の奥まで凍りつくような凛とした空気が流れ込んできた。不意に、誰かの手袋が片方だけ脱げて、冬の風に舞った。「あ!待って!」とそれを追いかける誰かと、あまりのドジさに呆れて立ち止まる誰か。私たちはいつもこうだ。誰か一人が走り出せば、あとの全員がそれに巻き込まれる。地図を読み違えたリーダーに、全力でツッコミを入れるメンバー。歩幅もリズムもバラバラな私たちの足音が、駅前の静かな路面に不協和音のように響いていた。ぶっちゃけ、この時点で「計画通り」なんて言葉は、どこか遠い国の言語だったのかもしれない。けれど、この噛み合わないリズムこそが、私たちの旅の正体なのだという気がして、心地よい諦めと共に歩き出した。

迷い込んだ路地裏に、春の予感

「ここを右に行けば、近道のはず」という根拠のない自信に賭けてみた。結果的に、私たちは完全に道に迷った。けれど、そのおかげで、予定になかった梅の花に出会った。2月の那須に、控えめに咲き始めた梅。その色は、寒さに耐えて少しだけ白みがかった、静かなピンクだった。誰かが「見て、綺麗じゃん」と小さく呟いたとき、それまで言い合っていた些細な喧嘩が、嘘みたいに消えていた。私たちはそのまま、道端に咲く花を眺めて、しばらくの間、何も話さなかった。冬の空気は乾燥していて、吐き出す息が白く、重なり合って空に溶けていく。効率的に観光地を回るよりも、こういう「無駄な時間」にこそ、旅の本当の価値が隠れている気がしてならない。私たちはその後、さらに迷路のような道を歩き、ようやく目的地へと辿り着いた。もう誰も、近道なんて求めていなかった。

森の静寂に抱かれて、心までほどける場所

ホテルサンバレー那須のロビーに足を踏み入れたとき、私たちは一瞬、言葉を失った。吹き抜けの空間が作り出す圧倒的なスケール感と、窓の外に広がる青く輝くプールのコントラスト。ここが本当に日本の山の中なのかと錯覚するほどだ。けれど、私たちが案内されたのは、そこから少し離れた「ふくろうの森」という静謐なエリアだった。森の中に点在するコテージに足を踏み入れ、裸足で触れたフローリングの温度が、ちょうど心地よく、外の寒さをゆっくりと溶かしていく。私たちが泊まるのは「源泉かけ流し 露天風呂付洋室」。部屋に入った瞬間、誰が一番にベッドに飛び込むかで、また小さな戦争が始まった。「ここは私の特等席!」と叫ぶ友人の背中を、私たちは笑いながら押し返した。けれど、結局はみんなで狭い空間に身を寄せ合い、くだらない話に花を咲かせる。それが一番しっくりくる距離感なのだ。

このコテージの最大の贅沢は、部屋にある露天風呂だと思う。弱アルカリ泉とマグネシウム泉が混ざり合った混合泉に身を沈めた瞬間、肌にまとわりつくような、とろけるような柔らかい質感に気づいた。硫黄の香りがかすかに漂い、視界には冬の木々が静かに佇んでいる。お湯の温度がちょうどよくて、強張っていた肩の力が、ゆっくりと、深く抜けていく。誰かが「最高じゃん」と呟き、私たちは同時に深い溜息をついた。一人で浸かる温泉もいいけれど、気心の知れた友人と、互いの疲れた顔を見合わせながら浸かるお湯は、ある種の特権のような心地よさがある。もしかすると、私たちはこの温かさを共有するために、わざわざ寒い那須まで来たのかもしれない。もこもこしたウールのセーターが肌に少しだけチクチクするけれど、それがかえって、今ここにいるという確かな実感を与えてくれる。不便さや不協和音さえも、後になれば心地よい記憶のテクスチャに変わる。そんな気がして、私たちはいつまでも、白い湯気の中で笑い合っていた。

窓の外で、ふくろうの彫刻が静かに私たちを見守っていた。

  • 2月の那須は想像以上に寒いので、重ね着できる服装で。特に「ふくろうの森」への移動は防寒必須です。
  • ホテル内のプールや大浴場など、施設が点在しているので、歩きやすい靴で回るのが正解だと思います。