← 戻る ワシントンR&Bホテル名古屋駅前

午前3時の空気の中に、まだ誰かの笑い声が混ざっていた

午前二時の共犯者と、コンビニ袋の誘惑

指先に触れるビニール袋の冷たい質感と、かすかに伝わる中身の重み。十一月の名古屋の夜風は、想像していたよりもずっと鋭く、頬を撫でるたびに小さな針が刺さるような感覚があった。街灯のオレンジ色が濡れた路面に反射し、都会の孤独を際立たせる時間。JR名古屋駅からワシントンR&Bホテル名古屋駅前まで歩くわずか九分間の道のり、私たちは誰が言い出したかも分からない「夜食計画」という名の共犯関係に突き動かされていた。街の喧騒が遠ざかり、コンクリートに反響する自分たちの足音だけが心地よく響き始める頃、袋の中でカサカサと鳴るお菓子の音が、今の私たちにとって唯一の正解であるかのように耳に心地よかった。部屋に戻れば、外の刺すような冷気とは対照的な、現代的なビジネスホテル特有の静寂と温もりが待っている。その極端な温度差に身を任せ、緊張がほどけていく時間が、旅のなかで一番贅沢な空白になるのかもしれない。

揚げ鶏の脂と、笑い飛ばした計画の残骸

「マジで、あのアドバイスを信じたのが間違いだったよね」

ベッドの端に腰掛け、コンビニで買った手羽先味のスナックを口に放り込みながら、友人が呆れたように笑う。私たちは今日、紅葉の名所を巡るはずだった。けれど、実際に向かった先で見たのは、半分以上落ち尽くして地面を茶色く染めた葉っぱの山だけ。ガイドブックの「絶景」という言葉を信じすぎた結果、私たちはただ、冷たい風に吹かれて途方に暮れていた。

「だって、写真ではあんなに真っ赤だったし。まあ結果的に、歩いた距離だけは誇張なしで優勝だったよ」

私が答えると、狭い部屋に小さな笑いが漏れる。ワシントンR&Bホテル名古屋駅前の客室は、無駄がなく機能的だ。けれど、その「ちょうど良さ」が、今の私たちにはたまらなく心地いい。誰に気兼ねすることもなく、柔らかいナイトウェアに身を包み、小さなテーブルを囲んでくだらない失敗を笑い合う。もしかしたら、計画通りにすべてが完璧に運んでいたなら、こんなふうに胃袋に溜まる満足感と一緒に、お互いの情けない部分をさらけ出す時間はなかっただろう。

「てか、このホテルの浴槽、意外と広くない?さっき入ったけど、足の疲れが全部溶けて消えた気がする」

「それな。効率重視のホテルだと思ってたけど、お風呂の温度が絶妙で、もう一度入りたいくらい」

私たちは、旅の目的だった「観光」よりも、今この瞬間の「だらだらすること」にこそ真の価値があることに気づき始めていた。揚げ鶏の濃厚な脂の匂いと、誰かがこぼした飲み物の甘い香りが混ざり合い、この部屋だけの濃密な空気を作り出している。私たちは、お互いのミスを笑い合いながら、明日もまた適当に歩こうと、密かに賭けをしていた。

満たされた胃袋と、夜の底に沈む静寂

食べ終えたパッケージがテーブルに散らばり、賑やかだった会話がふっと途切れた。部屋の中には、エアコンが低く唸る一定の周波数だけが残り、心地よい静寂が降りてくる。窓の向こう側では、名古屋の街が深い夜の中で静かに呼吸しているはずだ。けれど、この四方の壁に囲まれた空間だけは、時間の流れが少しだけ緩やかになっている気がする。もしかすると、旅における本当の充足感とは、目的地に辿り着くことではなく、こうして「何もしない時間」を誰かと共有することにあるのかもしれない。ふかふかのベッドに体を沈めると、リネンの清潔な匂いが鼻をくすぐる。心地よい疲労感が、ゆっくりと身体の輪郭を曖昧にしていく。明日、目が覚めたときには、今日の失敗さえも愛おしい記憶の断片に変わっているだろう。私たちは、言葉にならない安心感に包まれながら、深い眠りの淵へとゆっくりと滑り落ちていった。

窓の外で、遠くの車の走行音がかすかに、子守唄のようなリズムで消えていった。

  • 名古屋名物の手羽先味スナック。ビールと共に、深夜の反省会のお供に。
  • コンビニの熱々おでん。味噌だれが冷えた心までじわりと温めてくれる。