← 戻る Oakwood Hotel Kyoto Oike

冷たい空気と、少し焦げたチョコの匂い

スーツケースのハンドルが、指先に刺さるほど冷たかった。誰が一番先に道に迷うか賭けていたけれど、結果的に全員で迷子。東京駅からの道中で、僕らは何度も同じ角を曲がった気がする。冷たい冬の風がコートの隙間から忍び込み、鼻先がツンとする。ようやくオークウッドホテル京都大井 / Oakwood Hotel Kyoto Oikeに辿り着いたときには、みんな心地よい疲れで笑っていた。



深夜2時、キッチン完備の部屋で温め直したコンビニのおでん。立ち上る出汁の香りと白い湯気が眼鏡を白く曇らせて、視界がぼやける。その白い膜の向こうで、友達が麺を啜る音だけが静かに響いていた。豪華な設備があるのに、結局僕らが一番落ち着くのは、そんな適当な夜食の時間だったのかもしれない。


「休暇だって言ったよね?なんでベッドの上で仕事してるの」と、誰かが呆れた声を出す。ノートパソコンのキーボードを叩く乾いた音が、静かなリビングに点々と落ちていた。その執念深さを笑い合いながら、僕らはわざと大きな音で笑った。仕事と休暇の境界線が、温かい照明の下で曖昧に溶けていく感覚。


真夜中に回る洗濯乾燥機の、低い振動。洗剤の清潔な香りが空間に広がって、なんだか誰かの家に泊まっているみたいな錯覚に陥る。誰がどのタオルを使うかで揉めて、最後には適当に分けた。そんな些細なやり取りが、旅の輪郭をゆっくりと形作っていく。


皇居外苑まで歩いたとき、頬を打つ風が鋭かった。2月の空気は薄いガラスのようで、触れると割れてしまいそう。ふと見つけた梅の花が、寒さの中で必死に紅い色を湛えていた。その鮮やかさに、僕らは言葉を失って、ただ隣で肩を寄せ合った。


裸足で踏んだフローリングの、ひんやりとした温度。スタジオスーペリアキングの広い空間で、ベッドからキッチンまでゆっくり歩いて十数歩。その距離感が、一人でいるときよりもずっと短く感じられた。広い部屋だからこそ、お互いの気配が心地よい重さを持って伝わってくる。


バレンタインに挑戦した手作りチョコが、ほんの少し焦げた。キッチンに漂う苦い匂いと、それに気づいて大爆笑する僕ら。完璧な旅なんて、きっと退屈で仕方ない。この失敗こそが、後で思い出すときのメインディッシュになるんだろうな、という気がする。


厚い掛け布団に潜り込んだとき、ようやく肩の力が抜けた。外の凍てつく寒さと、部屋の中のぬくもり。その温度差が、今の僕らにちょうどいいバランスだった。何も解決していないけれど、ただここに一緒にいるだけで、十分だと思えた夜。

窓に残った白い結露が、ゆっくりと滴り落ちて消えた。

  • コンビニで最高にジャンクな夜食を買って、キッチンのカウンターで囲んでみて。
  • 皇居外苑の梅の花は、早歩きせずに、わざとゆっくり歩いて探すのが正解。