← 戻る 悅樂旅店‧花蓮中福

片方の靴を脱ぎ捨てた、ロビーの温度

湿った空気と、転がるスーツケースの不協和音

首のあたりに、濡れたタオルを巻かれているような重い空気。七月の花蓮は、空が呼吸を止めているかのように静まり返りながらも、皮膚にまとわりつくような濃密な湿度に支配されていた。空港から車を降りた瞬間、熱気が肺の奥まで一気に流れ込んでくる。子供たちはすでに限界だった。上の子は「もう一歩も歩けない」とアスファルトに座り込み、下の子はなぜか片方の靴を脱ぎ捨てて、それを遠くへ放り投げた。そんな混沌を抱えたまま、私たちは逃げ込むように 悅樂旅店‧花蓮中福 のドアを潜った。

扉を開けた瞬間、冷房の鋭い冷気が汗ばんだ肌を撫で、火照った身体を心地よく冷やしてくれる。その温度差に、張り詰めていた肩の力がふっと抜けた。ロビーの床にスーツケースのキャスターがぶつかる、ガタガタという乾いた音が響き渡る。その音は、どこか心地よいメトロノームのようなリズムを持っていて、バラバラだった家族の歩幅が、ゆっくりと一つのテンポに揃っていくような気がした。チェックインの手続きの間、子供たちはロビーのソファに飛び込み、見知らぬ旅人と目が合って、照れくさそうに笑い合っていた。完璧なスケジュールなんて、この湿度の中では意味をなさない。ただ、この冷たい空気と静寂の中にいられることが、今の私たちにとって何よりの贅沢だった。

計画になかった、青い色の発見

翌日、私たちはガイドブックに載っている名所を巡る代わりに、ただ「なんとなく」ホテルの中を歩くことにした。子供たちが最初に見つけたのは、一階にある共有スペースだった。そこには世界中から集まった旅人たちが、それぞれの時間を緩やかに過ごしている。誰かが淹れた深煎りコーヒーの香ばしい香りと、低く流れる心地よい音楽。上の子がボードゲームの駒をテーブルにぶつけた「カチッ」という小さな音が、空間に溶け込んでいく。下の子は、どこから持ってきたのか不思議な形のヘアバンドを頭につけて、カーペットの上を海の中を泳ぐ魚のように潜り始めていた。周りの大人たちが、それを微笑ましく見守っている。ここでは、子供が騒ぐことは「迷惑」ではなく、旅という風景の一部なのだと感じ、親としての緊張感が少しだけ解けていった。

そのまま、吸い寄せられるように屋上テラスへ上がった。そこには、言葉を失うほどの鮮烈な「青」が広がっていた。太平洋。水平線が空の青と溶け合い、どこまでが海でどこからが空なのか、その境界線が曖昧に滲んでいる。手すりの金属は太陽に焼かれて熱く、指先で触れるとじわりと熱が伝わってきた。海から吹き上げる潮風が、汗ばんだ額をさらっていく。子供たちは、遠くに見える白い船を指差して、誰が先に見つけるか競い合っていた。私たちはただ、その青い静寂に身を任せていた。何か特別なことをしなくても、ただそこにいて、同じ色の空を見上げているだけで、心の中の空白がゆっくりと満たされていく。それは、緻密に計画された観光ルートでは決して出会えない、偶然という名の贈り物だった。

眠った後の、冷たいタイルの感触

夜、子供たちが深い眠りに落ちた後の部屋は、昼間の喧騒が嘘のように静まり返っていた。エアコンの低いハム音が、部屋の輪郭をなぞるように一定のリズムで響いている。私は、裸足で床のタイルを踏んだ。ひんやりとした、硬く滑らかな感触。その冷たさが、一日中張り詰めていた神経をゆっくりと解きほぐしていく。洗面所で顔を洗うと、水の弾ける音が耳に心地よく、肌に残る石鹸の微かな香りが、複雑に絡まった思考をシンプルに洗い流してくれた。

窓の外に目を向けると、花蓮の夜が静かに横たわっている。遠くで聞こえる車の走行音や、時折混じる虫の声。それらが心地よいノイズとなって部屋を満たしていた。隣で、疲れ果てて口を開けて眠る子供たちの規則正しい寝息を聞きながら、私はふと思った。旅とは、目的地にたどり着くことではなく、こうした「何もない時間」を誰と共有できるかということなのだろうか。完璧な親でいようとして、スケジュールを詰め込み、子供たちの機嫌を伺う。そんな緊張感から解放されて、ただ「ここにいる」ことだけを許される時間。この静寂は、孤独ではなく、家族というチームで一日を戦い抜いたあとに訪れる、最高のご褒美だった。私たちは、お互いの存在を確かめ合うように、静かに、深く、眠りに落ちた。

鍵を返したあとの、小さな余韻

チェックアウトの日。子供たちは、あんなに騒いでいたのが嘘のように、「まだここにいたい」と私の裾を引っ張ってきた。上の子は屋上の青い海をもう一度見たいと言い、下の子はロビーのあの心地よいソファにまた座りたいとねだる。私たちは、名残惜しさを抱えながら 悅樂旅店‧花蓮中福 を後にした。フロントにルームキーを返したとき、指先に残ったプラスチックの冷たさが、旅の終わりを静かに告げていた。

車に乗り込み、再び七月の熱気の中に放り出されたとき、私たちは気づいた。持ち帰るのは、立派な土産物ではなく、子供が靴を脱ぎ捨てたロビーの温度や、屋上で一緒に見た、あの深い青色の記憶なのだと。不完全で、計画通りにいかず、少しだけ疲れる。けれど、そんな旅の断片こそが、後になって一番鮮やかに思い出される。私たちは、またいつか、この心地よい混沌に戻ってきたいと願った。

  • 地元の「香扁食」をぜひ試してほしい。ピリ辛の紅油が効いた温かいスープと、もちもちとした皮の食感は、旅の疲れを心地よく溶かしてくれる。
  • 午後の強い日差しが和らぐ時間帯に、屋上テラスで太平洋を眺めてみてほしい。ただ風に吹かれているだけで、呼吸が深くなるのがわかるはずだ。

近くのグルメ・スポット

来成排骨麺

來成排骨麺は花蓮市中正路にある1948年創業の老舗小吃店で、独特の排骨酥(リブスーの唐揚げ蒸し)とコラーゲンたっぷりの豚足が看板です。排骨酥は揚げてから蒸すことで外はカリッとし、甘辛クリアなスープと合わさり、豚足はプリプリとした弾力ある食感。この二品を合わせた組み合わせは、地元の食通や観光客が必ず頼む定番メニューです。店内では内用席とチャイルドシートを用意。2025年に移転して駐車が便利になり、家族や友人との会食に最適です。

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公正包子

公正包子は花蓮市の老舗小吃店で、厚めの甘みある皮が特徴の小籠包で有名です。1個約5台湾ドルで、手作り調味の豚肉餡を包み、パンチが欲しい方は自家製唐辛子ソースを。小籠包以外にも蒸餃、湯包、肉羹麺、酸辣麺、貢丸湯、アイス豆乳、紅茶を取り揃え。2023年末に仁愛街と成功街の角へ移転し、人気の「廟口紅茶」の向かいに。小さな店構えですが地元民と観光客の長蛇の列が絶えず、花蓮に来たら外せない必食スポットです。

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公正街包子店

公正街包子店は花蓮市街の40年以上続く老舗小吃で、厚皮の小籠包と蒸餃が看板です。生地は手で延ばして柔らかくモチモチ、ほんのり甘く、シンプルな味付けの肉汁あふれる豚餡を包みます。蒸餃、湯餃、肉羹麺、酸辣麺、貢丸湯、アイス豆乳、紅茶なども提供。2023年末の移転後も人気は健在で、行列は減りましたが花蓮の必食小吃として外せません。価格も手頃で、小籠包は1個約5〜7台湾ドル、気軽に食べられる手軽さが魅力です。

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周家蒸餃

周家蒸餃小籠包は花蓮市の公正街にある老舗で、50年近くにわたりその場で包んで蒸す蒸餃と小籠包が看板です。3種類の蒸餃、手作り小籠包、酸辣湯、肉羹湯、ルーロー飯など多彩なメニューを取り揃え、24時間営業。朝食、ランチ、ディナー、夜食とどんな時間でも利用できます。蒸餃は10個で約30台湾ドル、小籠包は10個で約40台湾ドルと手頃で味も鮮やか。長蛇の列が日常で、地元民と観光客双方の必訪グルメスポットです。

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