「ここ、私たちのリズムに合ってるかな」
「どうだろうね」と君は少しだけ肩をすくめた。七星潭水上明月海景渡假旅店のロビーに足を踏み入れた瞬間、視界が大きく開け、高くそびえるアーチ型の天井と煌びやかな水晶のシャンデリアが私たちを圧倒した。
「豪華すぎて、なんだか緊張しちゃうな」
「いいじゃない。たまには、こういうふうに『よそ行きの自分』になっても」
君が私の手を軽く握ったとき、指先から伝わってきたのは、少しだけ震えるような、けれど確かな温かさだった。
青い境界線に溶け合う、静寂の呼吸
部屋に入り、まず意識したのは足裏に触れる絨毯の深い厚みだった。歩くたびに音が吸い込まれ、世界に二人だけが取り残されたような錯覚に陥る。シモンズのマットレスに身を投げ出すと、それは都会の喧騒をゆっくりと吸収してくれる深い雲のようだった。リネンのひんやりとした感触が肌に触れ、深く息を吸い込むと、胸の奥に溜まっていた凝り固まった何かが、潮風の香りと共にほどけていく。
バルコニーへ出ると、四月の花蓮の風が頬を撫でた。温度は二十三度。冷たすぎず、けれど心地よい緊張感を運んでくる。目の前に広がる七星潭の海は、空の色と溶け合って、どこまでが水でどこからが空気なのか、その境界線が曖昧な、名付けようのない青色をしていた。その景色を眺めているうちに、肺の奥まで新鮮な空気が満たされていく。私たちはこの「空白」を求めてここに来たのかもしれない。
夕食に運ばれてきた「富貴明月黄金海老蟹」を口にしたとき、サクッという軽やかな音が耳に届き、直後に海老の濃厚な甘みと蟹の芳醇な香りが、潮騒のようなリズムで舌の上を駆け抜けた。地元の食材が持つ力強い味が、心地よい沈黙を演出してくれる。ふと思い立って、備え付けのシルクのガウンを羽織り、七星潭水上明月海景渡假旅店が誇る彩繪穹頂や欧州風壁画の前でエレガントに歩いてみせたが、裾に足を引っ掛け、不器用なペンギンのように君の前に転がり込んだ。君の吹き出した笑い声を聞いたとき、空港から続いていた言いようのない緊張感が、波に洗われるように消えていくのがわかった。
バスルームでロクシタンの香りに包まれながら、適温のお湯に身を任せていると、皮膚の境界線さえ消えていく感覚になる。柔らかな照明が肌を淡い琥珀色に染め、心まで温めてくれる。豪華な調度品に囲まれているけれど、結局私たちが求めていたのは、ただ隣に誰かがいて、同じ温度の空気を吸っているという、単純で贅沢な事実だった。不完全なままでいい。リズムが合わなくてもいい。ただ、この青い景色の中で、君の呼吸と私の呼吸が、ゆっくりと同期していくのを待っていたい。
青い海と、繋いだ手のぬくもりだけが、そこに静かに残っていた。
- 朝の六時、まだ街が眠っている時間にバルコニーで一緒に深呼吸してみて。
- 豪華なガウンを着て、あえて一番不格好な顔で笑い合ってみてね。