ほどける意識、二つの視界
白いリネンの、少しひんやりとした感触が肌に心地よく残っている。隣で聞こえる君の呼吸は一定のリズムを刻み、まるで静寂の中に置かれたメトロノームのようだ。三月の花蓮の朝は、まだ冬の名残を孕んでいる。鼻先をかすめる空気は鋭く冷たいけれど、厚い布団の中だけは、二人分の体温が濃密な熱となって溜まっていた。サイドテーブルに置かれた台湾味のウェルカムスナックが、微かに甘い香りを漂わせている。私はゆっくりと指先を動かし、シーツの織り目のわずかなざらつきを確かめた。今ここで君を起こすべきか、それともこの贅沢な静寂に身を任せるべきか。答えは出ないけれど、その迷いさえも愛おしく感じられた。遠くで波が岸壁にぶつかる低い音が、誰かが静かに扉を叩いているような控えめな合図となって、私の意識をゆっくりと覚醒させていく。
まぶたの裏に、淡い水色の光が透けて見えた。ゆっくりと意識が戻ると、部屋の中には潮の香りと、洗い立ての石鹸のような清潔な匂いが混じり合って漂っていた。隣にいる君の気配が、とても静かに、けれど確かにそこにある。ふと視線を上げると、カーテンの隙間から差し込む光の粒子が、空中でゆっくりとダンスを踊っていた。その光は深い青から、次第に透き通ったエメラルドグリーンへと溶け出していく。君がゆっくりと身を起こし、カーテンのリングがシャーッと金属的な音を立てて滑った瞬間、視界が一気に開けた。目の前に広がっていたのは、空と海の境界線が消えた世界。三月の陽光に照らされた水面が、細かな銀色の鱗のようにきらきらと震えている。逆光で白く飛び、輪郭だけが鮮やかに浮かび上がった君の横顔に、私はただ、言葉にならない溜息をついた。
溶け合う青の記憶
午後の光が黄金色に溶け始めた頃、私たちは福容大飯店 花蓮にある屋外プールにいた。水面に触れた瞬間、指先から体温がゆっくりと奪われ、代わりに心地よい浮遊感が全身を包み込んだ。ふと気づくと、プールの縁にある水が表面張力によって盛り上がり、今にもこぼれ落ちそうな危うい均衡を保っていた。その小さな水の盛り上がりは、今の私たちの関係に似ているのかもしれない。近づきすぎれば崩れてしまうけれど、離れれば繋がっていない。ちょうどいい距離で、互いの存在を感じながら、同じ方向に流れている。水面は鏡のように空を映し出し、どこまでがプールで、どこからが太平洋なのか、その境界線が曖昧に溶けていた。朝食のビュッフェで、最後の一つになった地元の焼き菓子を二人で同時に掴もうとして、指先が触れ合った時のあの小さくて可笑しな緊張感が不意に思い出され、私たちはどちらからともなく小さく笑い合った。
窓の外で、春の風がゆっくりと海の色を塗り替えていくのを眺めていた。
- 三月の早朝、部屋のカーテンを開けて、海の色が青から緑へ変わる瞬間をただ眺めて過ごすこと。
- 旅の途中で、あえて計画を決めずに、インフィニティプールの水面に浮かぶ雲の形を二人で数えてみること。