「誰が一番先に『寒い』って言うか賭けない?」そんなくだらない提案から始まった。2月の宜蘭は、空気がずっと濡れている。車を降りた瞬間、湿ったウールのコートに冷たい粒子がまとわりつき、鼻の奥に雨に打たれた岩石のような、少し金属的な匂いがした。二十輪Villa宜蘭館の入り口で、私たちは誰が一番余裕ぶれるか競い合っていたけれど、結局、ロビーに入る前に全員が肩をすくめていた。嘘つきの集まりだ、と誰かが笑った。
焼きたてのピザが運ばれてきたとき、とろけるチーズがゆっくりと伸びる音が聞こえた気がした。外気は18度まで下がり、指先が痺れるほど冷えていたが、口に運んだ瞬間に熱いトマトソースが喉を焼く。その激しい温度差に、ふっと肩の力が抜けた。朝食に添えられた山盛りの新鮮なサラダのシャキシャキとした食感と、冷たい空気の中で味わう贅沢。6時から7時のカクテルタイム、グラスの中で氷がカランと鳴るたびに、誰かの失敗談が掘り起こされ、笑いすぎて喉が乾く。
「ここ、ホテルっていうより倉庫じゃない?」誰かが部屋のコンクリート壁を見て呟いた。無機質なグレーの壁に、自分たちの笑い声が跳ね返って、心地よいエコーになる。洗練されているというよりは、どこか不親切で、だからこそ自由な空間。私たちはその「不親切さ」を肴にして、どれだけこの部屋が自分たちの雑多な荷物と合わないかを議論し始めた。結局、一番似合っていたのは、床に転がったままの誰かの靴下だった。
部屋の中にあるプライベートプール。2月の寒空の下で誰が最初に入るか、という第二ラウンドの賭けが始まった。結局、一番臆病だったはずのあいつが、絶叫しながら飛び込んだ。水しぶきが冷たいタイルの床に散らばり、その氷のような温度に全員が「うわっ」と声を上げる。震えながらお互いの顔を見て、同時に吹き出した。冬にプールに入るという、合理的ではない選択。でも、その馬鹿げた瞬間こそが、この旅の正解だった。
夜は線香を焚いて湯船に浸かり、心まで解きほぐした。その後、ブレインスリープの枕に頭を沈めると、大脳がゆっくりと溶けていくような感覚に陥る。スリンバランのマットレスが、一日中歩き回って強張った腰を静かに受け止める。隣のベッドからは、規則正しい寝息が聞こえてくる。誰かと一緒にいるけれど、意識は深い海の底へ沈んでいくような、心地よい孤独。冬の土の中で、静かに殻を破ろうとする種のように、自分の中の何かが少しだけ柔らかくなるのを感じた。
深夜3時に目が覚めて、トイレまで歩く。裸足で踏んだタイルのひんやりとした温度が、意識を鮮明にさせる。ベッドから洗面台まで、ゆっくり数えて12歩。静まり返った空間に、自分の足音だけが小さく響く。鏡に映った自分の顔が、いつもより少しだけ緩んでいることに気づいた。ここでは、誰かになろうとしなくていい。ただの、少し疲れた旅人でいられる。
翌朝、庭に出ると、視界の端に本物のあひるたちがいた。彼らは私たちの騒がしさなんて気にする様子もなく、淡々と地面をつついている。そのあまりに日常的な光景に、なんだか救われた。「計画していた観光地へ行くのはもういい、ここでこの鳥たちの動きを眺めていよう」そう提案したとき、誰も反対しなかった。私たちは、予定をこなすことよりも、何もしない時間を共有することを選んだ。
チェックアウトのとき、誰かが「また来年、同じ賭けをしよう」と言った。帰り道の車内、窓の外を流れる宜蘭の景色は、まだ少しだけ冬の眠りの中にいたけれど、私たちの間には、春を待つ小さな芽のような温かい空気が流れていた。二十輪Villa宜蘭館での時間は、完璧な旅じゃなかったけれど、だからこそ忘れられない。欠けている部分があるからこそ、そこに誰かが入り込む余地があるのだと思う。
濡れたアスファルトに、淡い光が反射していた。
- 6時のカクテルタイムは絶対。お酒が飲めなくても、あの贅沢な空気感に浸ってほしい。
- 部屋のプールに飛び込むときは、勇気ではなく「勢い」で。その後の笑いが最高だから。