部屋のエアコンが吐き出す冷気は、どこか必死だった。窓の隙間からじわじわと侵入してくる八月の湿気が、冷たい空気とぶつかり合い、目に見えない境界線を描いている。その境界に立っていると、自分が今、台湾の宜蘭という土地に深く潜り込んでいることを肌で理解させられた。
正直に言って、今回の旅に「優雅さ」なんて求めていなかった。子供二人を連れての移動は、もはや休暇ではなく、分刻みのスケジュールをこなす高度なチーム作戦に近い。上の子は「一番大きな窓がある部屋がいい」と譲らず、下の子は「温泉って、火山のマグマが溶けてるの?」と真剣な眼差しで問いかけてくる。そんな喧騒が、ホテルの廊下にリバーブのように響き渡っていた。
けれど、部屋に足を踏み入れ、ふわりと心地よい空間に包まれたとき、張り詰めていた肩の力がふっと抜けた。部屋の隅に置かれた優美な貴妃椅子の曲線が、旅の疲れを誘っている。礁溪麒麟酒店という空間は、家族それぞれのバラバラな周波数を、そのまま優しく包み込んでくれる大きな音響室のような気がした。ここでは、騒がしささえも心地よいリズムに変わる。
私たちが一緒に見つけた、五つの断片
三星葱の濃い香り。夕食の養生鍋から立ち上がる、鼻をくすぐる鋭くも甘い香り。真っ白な湯気に包まれて、普段は野菜を拒絶する下の子が、不思議そうにスープを啜っていた。「おいしい」と小さく呟いたその瞬間、旅の緊張がほどけ、心に温かな灯がともった。一番最初にこの香りに気づいて、大はしゃぎしたのは上の子だった。
浴室タイルの温度差。裸足で踏み出したとき、最初はひやりと冷たく、けれど浴槽に近づくにつれてじわじわと熱を帯びていく。その温度のグラデーションが、足の裏から心まで伝わってくる感覚。傍らに置かれた木杓子からは、ほのかに乾いた木の香りが漂っていた。この「温度の境界線」を面白がって、何度も行ったり来たりしていたのは、好奇心旺盛な下の子だ。
窓の外に浮かぶ亀山島。高層階の部屋から眺める、八月の霞んだ青い景色。遠くにぼんやりと浮かぶ島のシルエットが、まるで海に溶け出した静かな記憶の断片のように見えた。エアコンの低いハム音だけが聞こえる静寂の中で、私たちはただ、太平洋の深い青に視線を委ねていた。この静謐な景色を一番に指差したのは、珍しく静かだった私とパートナーだ。
SPAプールの弾ける水しぶき。水深七十センチの心地よい浮遊感。子供たちが激しく水を跳ね上げるたびに、弾けるような笑い声が天井に反射し、心地よいノイズとなって降り注ぐ。水の中でもがきながら、お互いの顔を見て笑い転げた時間は、何物にも代えがたい宝物になった。このカオスな時間を全力でリードしていたのは、間違いなく上の子だった。
一面の白いベッドの沈み込み。一日中歩き回って、泥のように疲れた身体を預けたとき、マットレスがゆっくりと、けれど確実に身体を包み込んだ。清潔なリネンの清潔な匂いと、家族全員がひとつの大きな塊になって眠る安心感。最後にとどめを刺すように、深い眠りの海へ真っ先に落ちていったのは、一番先に寝息を立て始めた下の子だった。
子供たちの寝顔だけが、この部屋で唯一、完璧に静かな時間だった。
- 部屋に備え付けのタオルは多めに借りておくこと。子供が温泉に浸かると、予想以上のペースで消費されるから。
- 朝食の牛肉スープは、ぜひ子供と一緒に試してほしい。優しい出汁の味が、旅の疲れを静かに溶かしてくれる。