「陸上のクルーズ」って、ぶっちゃけどういうこと?
「ねえ、賭けてもいいけど、絶対誰か日焼け止め忘れてるよね」
誰かがいたずらっぽく笑いながら切り出した。私たちは、凱渡廣場酒店のロビーに足を踏み入れた瞬間、その話題で爆発したように盛り上がった。大理石の床にスーツケースがぶつかる乾いた音と、どこか清涼感のあるアロマの香りが混じり合う中、会話は加速していく。
「っていうか、ここ『陸上のクルーズ』って書いてあるけど、船なのに動かないってどういうこと? 詐欺じゃないの?」
「いいじゃん、動かないなら酔わないし。最高でしょ」
「いや、そういう問題じゃなくて。想像してみてよ。豪華客船に乗り込んだと思ったのに、窓の外にずっと同じヤシの木が見えてる絶望感を」
「絶望っていうか、それはもう、究極の贅沢でしょ。私たちは今、世界で一番贅沢な『停泊』を体験してるわけ」
私たちは互いのセンスを激しく突き合いながら、チェックインの手続きを待った。誰が忘れ物をしたかはまだ判明していないけれど、そのもどかしささえも、今の私たちには心地よいスパイスだった。
静寂に沈み込む絨毯と、殻を脱ぎ捨てる時間
部屋のドアを開けた瞬間、まず意識を奪われたのは、足裏に吸い込まれるようなカーペットの厚みだった。裸足で踏みしめると、指先が心地よく沈み込み、外界の喧騒をすべて飲み込んでしまうフィルターのように機能している。その静寂は、つい先ほどまで騒ぎ立てていた私たちの会話さえも、どこか遠い記憶のように塗り替えていった。部屋は驚くほど広々としていて、隅々まで行き届いた清潔感が、心地よい緊張感を解いてくれる。窓の外には、6月の濃い青を湛えた海が地平線まで続き、肌に触れる風には、焼けた塩の匂いと湿り気が混じっていた。
私たちは今、人生という大きな物語の、ちょうど「種」である時期にいるのかもしれない。学生という心地よい、けれど狭い殻の中に閉じこもっていたけれど、卒業という地中の圧力に耐えきれず、内側から何かが弾ける音が聞こえる。それは痛みというよりは、むしろ解放に近い感覚だ。硬い殻がひび割れ、そこから初めて外の世界へ触手を伸ばそうとする、あの不器用な衝動。凱渡廣場酒店の、白と青で構成されたミニマルな空間は、その不安定な移行期にある私たちを、静かに包み込んでくれる大きな器のように感じられた。適度な弾力を持つベッドに身を投げ出すと、心の中の強張りがゆっくりとほどけていく。
海水プールに身を投げ出したとき、冷たい水が肌を刺した。けれど、その鋭い冷たさが、自分が今ここに存在しているという確信をくれた。水面に反射する太陽の光が、細かく砕けて視界に飛び込んでくる。私たちは泳ぐことよりも、ただ水に浮いて、空の色が刻一刻と変わるのを眺めていた。何者かにならなければならないという焦燥感が、プールの底にゆっくりと沈んでいく。正解なんてないのかもしれない。ただ、この温度と、隣でバシャバシャと水を跳ね上げている友人の笑い声があれば、それで十分だという気がした。
深夜3時のサイダーと、答えのない問いかけ
「ねえ、10年後も私たち、こんなふうにくだらないことで笑い合ってるかな」
部屋のバルコニーで、ぬるくなったサイダーを飲みながら、誰かがぽつりと呟いた。昼間の騒がしさは消え、夜の海が深い呼吸を繰り返している。遠くに亀山島が、闇に溶け込むようにぼんやりと浮かんでいた。夕食に堪能したペラゴ・ビュッフェの贅沢な余韻が、まだ胃のあたりに心地よく残っている。
「どうだろうね。たぶん、もっと性格悪くなってると思うよ」
「ひどいな。でも、まあそうかも。ぶっちゃけ、今のままだと社会に揉まれてすぐに消えちゃいそうだし」
「消えなくていいよ。ここで感じた、この心地よい停泊感だけは忘れないようにしよう」
私たちは、スパで感じた檜の香りを思い出した。あの温かい湯船に浸かっていたとき、心の中の凝り固まった何かが、ゆっくりと解けていくのがわかった。誰にでも、自分だけの「停泊地」が必要だ。明日からは、それぞれが違う方向へ泳ぎ出すけれど、この場所で共有した、名前のない安心感だけは、お互いの記憶に深く根を張るはずだ。
「あ、やっぱり日焼け止め、誰も持ってなかったね」
「……もういいよ、その話」
私たちは顔を見合わせて、同時に吹き出した。夜風が少しだけ冷たくなり、サイダーの泡が静かに消えていった。
夜明け前の空が、薄い紫から淡いオレンジへと、ゆっくりと塗り替えられていく。
- 6月の宜蘭は午後から雨が降りやすいため、あえて海水プールとスパで一日中「停泊」して過ごすのが正解です。
- 夕食のペラゴ・ビュッフェでは地元の新鮮なシーフードを堪能し、大人の階段を登る気分を添えて。