「誰が一番先に、この塩味のアイスに絶望するか賭けない?」
「絶望って言い方ひどくない?というか、これ意外と美味しいんだけど」と、誰かがいたずらっぽく笑いながらスプーンを口に運ぶ。曾記涼泉芳冰店の看板メニューを前にして、私たちは互いの顔を見合わせて、同時に吹き出した。12月の台東は、風が少しだけ鋭い。冷たい空気が鼻腔を突き抜けるたびに、口の中に広がる塩キャラメルの濃厚な甘さと塩気が鮮明に際立ち、そのギャップになんだか可笑しくなる。「今の顔、完全に『想定外』って書いてあったよ」と誰かが鋭く突っ込み、また意味のない言い合いが始まった。賑やかな笑い声が、冬の澄んだ空気に溶けていく。
白い余白に溶け出す、騒がしい時間
鮪魚家族飯店の部屋に足を踏み入れた瞬間、まず目に飛び込んできたのは、徹底して削ぎ落とされた白だった。装飾のない壁、真っ直ぐに伸びるライン。その潔いシンプルさが、かえって私たちの騒がしさを鮮明な色彩のように浮かび上がらせる。四人用のベッドが並ぶ部屋の中で、誰がどこに寝るかでまた子供のような小競り合いが起きた。裸足で踏んだフローリングのひんやりとした温度が、外の鋭い風から切り離された、守られた聖域に来たことを教えてくれる。
ふと開いた窓からは、どこからか漂ってくる心地よい料理の香りが入り込み、旅の空腹を優しく刺激した。ここはサイクリストにも優しい宿だそうで、ロビーに並ぶ自転車たちの気配が、どこか遠い旅情を誘う。シーツのパリッとした清潔な感触が肌に触れるたび、一日中歩き回った足の疲れが、ゆっくりと重力に溶けていくのがわかった。かすかに聞こえるエアコンの低いハム音と、清潔なリネンの香り。豪華な設備があることよりも、ただ「ここにいてもいい」と感じさせる、適度な距離感のある空間。それが、今の私たちには一番必要だった。この鮪魚家族飯店の白い部屋は、私たちが自由に思い出の色を塗り替えるための、大きなキャンバスだったのかもしれない。
午前二時、シーツの海で交わす本音
「来年、やりたいことって、実は全然決まってないんだよね」
部屋の明かりを消して、小さな間接照明だけが灯る時間。昼間の喧騒が嘘のように消え、声のトーンが一段階下がった。隣のベッドから聞こえる、衣類が擦れる微かな音。誰かが小さく、深くため息をついた。
「いいんじゃない。決まってない方が、どこにでも行ける気がするし」
「そうかな。普通は不安になるよね」
「不安っていうのは、ただのコンパスみたいなもんだと思う。怖いと感じる方向に向かえば、たぶんそこに答えがある。……なんてね。今っぽく聞こえた?」
ふふっ、と誰かが小さく笑った。その笑い声は、昼間の爆笑とは違って、とても柔らかく、体温に近い温度を持っていた。私たちは、正解を出すことをやめた。ただ、暗闇の中で互いの存在を確認し合うように、とりとめもない言葉を投げ合い、それを夜の空気に溶かしていった。12月の夜風が窓の外で低く鳴っているけれど、分厚い布団にくるまっている今の私たちは、世界で一番安全な場所にいる。
窓の外で、夜がゆっくりと深い藍色から淡い灰色へ塗り替えられていく。
- 曾記涼泉芳冰店で、あえて一番「正体不明」な味のアイスをシェアして、互いの反応を観察すること。
- 鮪魚家族飯店の真っ白な部屋で、あえて何の計画も立てずに、ただ天井を眺めて過ごす時間を1時間だけ作ること。