グラスの中で最後の一つになった氷が、カランと乾いた音を立てて溶けきった。それが、誰にも言えない密かな合図になったのかもしれない。七月の台中市は、太陽が白すぎて世界のあらゆる色彩を塗りつぶそうとしている。高美湿地で浴びた、肺の奥まで入り込むような潮風の香りと、じりじりと皮膚を焼く熱気に意識が朦朧とする中、辿り着いた「台中順天環匯酒店」のロビーは、別世界のように静謐だった。大理石の床から立ち上がる冷気が、火照った足首に心地よくまとわりつく。私たちは、誰が一番に「お腹が空いた」と白旗を上げるか、密かに賭けをしていた。結果的に、エレベーターの中で誰かが小さく、けれど深い溜息をついた瞬間にその賭けは決着がついた。コンビニで適当に買い込んだ、油の匂いが食欲をそそる揚げ物と、粘り気のある甘いタピオカミルクティーを抱え、私たちは逃げるように部屋へと駆け込んだ。ドアを開けた瞬間、高い天井に私たちの笑い声が吸い込まれていく。この部屋は、今の私たちには少し広すぎる。けれど、その贅沢な余白があるからこそ、私たちはもっと自由に、だらしなく、この空間を使い切ることができるという気がした。
咀嚼音に紛れ込ませた、取り留めのない本音
「マジで、あの地図信じたの誰? 完全に迷ったじゃん」
ベッドの上に広げたビニール袋から、香ばしい油の匂いが一気に立ち上る。誰かが揚げ鶏を頬張りながら、口いっぱいに言葉を詰め込んだ。
「だって、あっちの方が近そうだったし。それに、迷ったおかげで、あの不思議な路地裏の古本屋を見つけられたでしょ」
「あれ、ただの古本屋だったし。っていうか見てよこの部屋。広すぎて、豪邸みたいなバスルームまで行くのにちょっとした旅みたいな気分になるんだけど」
誰かが笑いながら、ふかふかのカーペットに身を投げ出した。裸足に触れる生地の柔らかな感触が、昼間のアスファルトの熱をゆっくりと消し去っていく。私たちは、わざとらしく不便なことを言い合いながら、コンビニの安っぽい食事を、まるで最高級のディナーのように味わっていた。本当は、道に迷ったことも、暑さで意識が朦朧としたことも、全部どうでもよかった。ただ、こうして冷房の効いた静かな部屋で、お互いのくだらない失敗を笑い合っている時間が、心地よくてたまらなかった。指先に付いた油を、ホテルの真っ白なタオルで拭き取る。その贅沢さと、食べているもののジャンクさのギャップが、なんだか今の私たちの不器用な関係みたいで、可笑しくなった。体の中で、旅の興奮が心地よい痺れとなって、指先までゆっくりと広がっていく感覚がある。それは、足が痺れたときのような、少し不安で、でも解放感のある、あの独特な感覚に似ていた。
満たされた胃袋と、心地よい静寂の余白
袋の中身が空になり、会話の間隔がゆっくりと空き始めた。言葉がなくても、隣に誰かがいる体温が分かる。そんな沈黙が、高い天井を持つ部屋の空間に、ゆっくりと、けれど確実に満ちていく。窓の外には、台中の夜景が宝石を散りばめたように広がっていた。遠くを走る車のライトが、光の川となって絶え間なく流れていく。私たちは、誰からともなく、大きなベッドに身を沈めた。リネンのひんやりとした感触が、火照った肌に心地よい。高い天井を見上げていると、自分がとても小さな存在になったような気がした。でも、それは寂しいことではなくて、むしろ自由なことのように感じられた。何者でもない自分たちが、ただここにいていい。そんな絶対的な安心感が、部屋の隅々まで満ちている。明日になればまた、あの刺すような太陽の下へ飛び出していくのだろう。でも、今はただ、この静寂と、かすかに残る揚げ物の匂いと、心地よい疲労感に身を任せていたい。誰かが小さく欠伸をした。それが、この夜の終わりを告げる合図だったのかもしれない。
真っ白なシーツの中で、お互いの呼吸だけが静かにリズムを刻んでいた。
- 地元のコンビニで買える、甘い豆乳と揚げ鶏のセット。深夜の贅沢にちょうどいい。
- 台湾の夜市で迷い込んだ先に見つけた、名前も知らない温かいおでん。