← 戻る HOTEL SHIRAHAMAKAN

靴の中に残った白い砂は、家に着くまで消えなかった

浴衣の袖が少しだけ長くて、歩くたびに畳の上をカサカサと乾いた音で擦る。その控えめな音を聞いていると、自分がどこか別の時代の、少しだけ不器用で穏やかな人間になったような気がした。

家族での旅行というのは、常に誰かが何かを忘れ、誰かが予想外の方向へ走り出し、大人がそれを追いかけるという、心地よいパニックの連続だ。私たちは、そんな「チーム作戦」のような旅の拠点に、HOTEL SHIRAHAMAKAN(白浜館)を選んだ。露天風呂付和室の扉を開けた瞬間、ふわりと漂ってきたのは、懐かしいい草の香りと、遠くから届く潮騒の気配だった。

4月の白浜は、空気がまだ少しだけ冷たくて、でも陽だまりだけが確かな温度を持っている。子供たちは「温泉ってどうやって湧いてくるの?」と、答えを急かさない不思議な間隔で問いかけてくる。大人が答えに窮して、ふっと視線を泳がせるその数秒のラグこそが、旅の本当の正体であり、贅沢な時間なのかもしれない。

家族の足跡が重なった5つの記憶

紀州名物の梅樽風呂:濃厚な木の香りが白い蒸気と一緒に鼻をくすぐる。源泉かけ流しの熱いお湯に浸かった瞬間、じわっと皮膚の奥まで熱が伝わるまでの心地よい時間差。次男が「これ、巨大なスープボウルみたいだね」と言って、お湯をゆっくりとかき混ぜ始めたとき、私たちはみんなで笑った。一番に「お風呂だ!」と叫んで飛び込んだのは、やっぱり次男だった。

白良浜の真っ白な砂:ホテルから歩いてわずか30秒。視界が開けた瞬間、目に飛び込んできたのは、砕いた真珠をぶちまけたような眩い白さだった。足の指の間に入り込む砂の粒が、少しだけひんやりとしていて、波打ち際の冷たい水と交互に触れる感覚が心地いい。長女が「本当に砂糖だったらいいのに」と真剣な顔で砂を凝視していた。この純白の世界に一番に目を奪われたのは、長女だった。

10畳の和室の匂い:い草の乾いた香りと、開け放った窓から忍び寄る春の柔らかな風。スーツケースのジッパーを開ける金属音と、子供たちがどさどさとお菓子を広げる賑やかな音が部屋に反響する。完璧に整頓された空間よりも、この「生活感」という名の温もりに包まれている時間の方が、ずっと安心できる気がする。部屋の広さに最初に気づいて、大の字に寝転んだのは、長男だった。

庭園に舞う薄紅色の花びら:朝7時、まだ誰も起きていない静寂の中で見た景色。薄いピンクの花びらが、淡い灰色の空を背景に、雪のようにゆっくりと舞い落ちている。冷たい空気の中で、温かいお茶を啜り、喉を通る熱を感じる。この静けさが、この後の嵐のような賑やかさを予感させて、それがなんだか愉快だった。庭の桜に最初に気づいて、私たちを起こしたのは、長男だった。

ぶかぶかの浴衣と帯:帯を締めようとして、もどかしそうに格闘する時間。大人が手伝っても、どうしてもどこかが緩んでしまい、結び目が不格好になる。でも、家族全員が同じ柄の浴衣を纏い、廊下をちょこちょこ歩く姿は、まるで小さな行進のように見えた。帯がうまく結べなくて「変な形になっちゃった」と照れくさそうに笑ったのは、長女だった。

車に乗り込んだとき、子供の靴から白い砂がさらさらとこぼれ落ちた。

  • 白良浜へはぜひ裸足で歩いてみてください。足裏から伝わる砂の白さと温度の変化に、心がほどけます。
  • 樽風呂に浸かる前に、あえて冷たい外気に触れてみてください。お湯に入った瞬間の快感が何倍にも膨らみます。