迷宮と潮風に包まれて、家族で分かち合った5つの記憶
送迎カート:10月の空気は、濡れたタオルのようにしっとりと肌にまとわりついていた。南紀白浜とれとれヴィレッジに降り立った瞬間、大理石のロビーに響いたのは、末っ子が鳴らしたスニーカーの「キュッ、キュッ」という高い音。それが冒険の号砲なのか、あるいは大泣きへのカウントダウンなのか、親の私には判別がつかない。そんな緊張感を乗せて走り出した送迎カート。頬を撫でる冷ややかな風と、ガタガタと身体を揺らす振動が、日常から切り離される心地よい不安を連れてくる。最初に「速い!」と歓声を上げたのは、長男だった。
ダンジョンの壁:このホテルは、大人が本気で考えた「非日常」が至る所に転がっている。RPGの舞台のような洞窟ダンジョンに足を踏み入れると、そこにはひんやりとした地下室のような匂いと、薄暗い光が支配する異世界が広がっていた。指先で触れる壁は少しざらついていて、冷たい。大人が「凝った演出だね」と苦笑いする傍らで、子供たちは本気で迷宮を攻略しようと躍起になっている。壁に刻まれた奇妙な模様を「これは秘密の暗号だよ!」と真剣に言い張ったのは、末っ子だった。
6人部屋(和室調)の畳:私たちが身を寄せたのは、広々とした6人部屋(和室調)だった。部屋に満ちるい草の清々しい香りと、布団を広げるたびに鳴るカサカサという乾いた音。子供たちが全力で走り回っても、壁にぶつかるまでにある程度の時間が稼げる。その物理的な余裕が、不思議と親としての精神的な余裕に変換されていく。旅の途中で上の子が靴下を片方失くしたが、もういいと思った。完璧な旅など誰が望むだろう。予定外の混乱こそが、家族の旅というパズルの欠かせないピースなのだと、畳の温もりに触れながら感じた。最初にこの部屋の心地よさに気づいたのは、私だった。
ドームウェア:ファンタジーの世界に没入させてくれるドームウェアに身を包む。少しゴワつく生地感に、子供たちにはサイズが大きすぎて、袖が指先まで完全に隠れてしまっている。けれど、その不格好さが彼らにとっては「勇者の正装」なのだろう。鏡の前で、誇らしげに、けれどどこかぎこちなくポーズを決める姿に、思わず笑みがこぼれた。日常の役割を脱ぎ捨てて、ただの冒険者になれた瞬間だった。その格好で一番に鏡に駆け寄ったのは、次男だった。
白良浜の白い砂と海鮮:偽物の迷宮を抜けて辿り着いたのは、白良浜の眩いほどの白い砂浜だった。靴の中に忍び込む小さく硬い粒が、足の裏に心地よい刺激を与える。そして、とれとれ市場で味わった海鮮の、鼻を抜ける濃厚な磯の香りと口いっぱいに広がる塩気。それこそが、この旅で唯一、疑いようのない「本物」の体験だった。偽物の迷宮と本物の味。その矛盾した時間が、家族の絆をより深く、温かく結びつけてくれた気がする。一番に「美味しい!」と声を上げたのは、パートナーだった。
夕暮れのテラスで、子供たちが静かに眠りに落ちた後の、凪のような時間。
- 迷宮エリアを散策する際は、子供の歩幅に合わせてゆっくり歩くこと。彼らにしか見えない「秘密のルート」が見つかるかもしれない。
- とれとれ市場での食事は、あえて時間をずらして。喧騒が引いた後の、静かな波の音が聞こえてくるはずだ。