← 戻る インフィニート ホテル&スパ 南紀白浜

肩に落ちた光が、少しだけ白かった

肩に落ちた光が、少しだけ白かった

「今のこの光は、すごくいいと思う」

「ここ、本当にいいところだね」
君がそう呟いたとき、指先が触れていたドアハンドルの金属が、秋の気配を孕んで少しだけ冷たかった。インフィニート ホテル&スパ 南紀白浜の客室に足を踏み入れた瞬間、潮風の香りがかすかに混じった、洗い立てのリネンの清潔な匂いが鼻をくすぐる。
「うん。……ねえ、私たち、うまくやっていけるかな」
君の問いかけは、遠くで鳴る波の音に溶けて消えそうだった。僕は答えを持っていなかったけれど、窓から差し込む午後の黄金色の光が、僕たちの足元で静かに揺れているのを見て、小さく頷いた。
「わからない。でも、今のこの光は、すごくいいと思う」

屈折する光と、名前のない空白を愛すること

ベッドに体を預けると、パリッとしたシーツの冷たさが肌に心地よく、肺の中の淀んだ空気がゆっくりと入れ替わっていく。窓辺では、ガラスを通り抜けた陽光がプリズムのように分かれ、白い壁に淡い虹色の断片を投げかけていた。僕たちは、最短距離で正解に辿り着くことばかりを急いできたのかもしれない。けれど、光が屈折して色を変えるように、少しだけ視点をずらして相手を見ることで、今まで気づかなかった色彩が見えてくる。そんな予感が、静寂の中でゆっくりと広がっていった。

スパの湯に身を委ねれば、肌を叩く水圧が心地よく、凝り固まった肩の力がじわじわと解けていく。体温よりわずかに高いお湯の温度に、自分と世界の境界線が曖昧になる感覚。隣にいる君の静かな呼吸が、水面に小さな波紋を描き、それがゆっくりと僕の方へ届く。言葉にしなくていい沈黙が、ここでは重荷ではなく、二人を優しく包み込むカシミアの毛布のように感じられた。水蒸気に包まれた空間で、私たちはただ、お互いの存在を肌で感じていた。

外に出れば、白浜の砂浜はどこまでも透き通った白に塗り潰されていた。裸足で踏みしめた砂はひんやりとしていて、指の間をさらさらとすり抜ける感触が心地いい。遠くに見える紅葉の始まりを告げる山々の深い色を眺めながら、私たちはどちらからともなく、ゆっくりと歩幅を合わせた。完璧に同期しているわけではないけれど、このわずかなズレこそが、僕たちが僕たちであるための心地よいリズムなのだと思う。

夕食にいただいた地元の魚料理は、塩味が鋭すぎず、素材の甘みが口の中で静かに広がった。味覚という情報は、時として記憶よりも正直に、その場所の温度を教えてくれる。食後、部屋に戻って並んで本を読んだ。静寂が心地よくて、僕は少しだけ知的な雰囲気を演出しようと背筋を伸ばしていたけれど、不意に集中が切れて、読んでいた本を滑らせ、眼鏡を紅茶の中にポチャンと落とした。君が小さく吹き出した、鈴を転がしたような音が、この旅で一番心地よい周波数だった。

僕たちはまだ、お互いの正解を模索している途中にいる。けれど、インフィニート ホテル&スパ 南紀白浜で過ごした時間は、答えを出すことよりも、答えが出ないまま隣にいる心地よさを教えてくれた。色の分かれ方を眺めるように、ただそこに在ること。それだけで十分なのだと、今の僕は感じている。

暮れゆく空の色が、君の瞳の中に静かに溶け込んでいた。

  • 夜明け前の静かなビーチを、どちらが先に喋り出すか競いながら歩いてみて。
  • スパのラウンジで、お気に入りの本を持ち寄り、あえて会話をせずに過ごして。