浴衣の帯がぎゅっと食い込んで、呼吸が浅くなる。誰が一番先に歩けなくなるかという不毛な賭けをしていたけれど、結局は全員が迷路のような路地に迷い込んだ。淀屋橋まで徒歩4分という案内を盲信しすぎたのが、最初にして最大の失策だった。湿り気を帯びた夜風に、どこからか漂う線香の香りが混じり、鼻の奥に心地よい違和感として残っていた。
屋台で買ったラムネは、いつの間にかぬるくなっていた。それでも、瓶の中のガラス玉がカチリと鳴る乾いた音だけが、重たい夜気の中で妙に鮮明に響く。翌朝、ホテルリソルトリニティ大阪のレストランで口にした、出汁の効いた少し甘めの卵焼き。その絶妙な温度感が、昨夜の喧騒を遠い記憶の彼方へと押しやってくれた。
「お前、地図読めるって自信満々に言ったよな」という誰かの呆れた呟き。言い返そうとしたけれど、足の指の間に挟まった砂のざらついた感触が気になって、結局は声を上げて笑うしかなかった。私たちはきっと、目的地に辿り着くことよりも、正解のない道を彷徨っている時間の方に、心地よさを感じていたのだと思う。
このホテルのコンセプトが「橋」だと知ったとき、私たちは自分たちを「橋の設計士」と名乗り始めた。大阪の街に点在する橋をいくつ渡ったか競い合い、最後には最も多く渡った者が勝ち、敗者がコンビニのアイスを奢るという、大人のすることとは思えないくだらないルールに心底盛り上がった。
ロビーに足を踏み入れた瞬間、肌にまとわりついていた熱気が、魔法のようにすっと引いていく。外の喧騒が嘘のように消え去り、そこには黄昏時のような、淡い光だけが静かに溜まっていた。深く息を吸い込むと、肺の隅々まで冷やされるような、澄んだ静寂が広がっていた。
スーペリアクイーンの部屋で照明を落とすと、壁に落ちる影がゆっくりと、生き物のように伸びていく。足裏に触れるカーペットの、しっとりと厚みのある感触。深夜3時にふと目が覚め、トイレまで歩くわずか数歩の距離で、自分の足音が意外なほど大きく響くことに気づき、小さく苦笑した。
大浴場で、誰が一番先に寝落ちするかという、静かなる競争が始まった。お湯の温度がちょうどよく、意識がゆっくりと溶けていく感覚。結局、誰が勝ったのかは誰も覚えていなかったけれど、湯上がりの肌に触れるひんやりとした空気と、芯からほどけた体の心地よさだけは本物だった。
クイーンサイズのベッドに、泥のように深く沈み込む。シーツのパリッとした冷たさが、火照った体に心地よく馴染む。明日になればまた、あの騒がしくも愛おしい街に戻るのだろうけれど、今はただ、この淡い光と静寂の中に、溶けて消えてしまいたいと思った。
枕元のランプを消すと、深い闇が優しく体を包み込んだ。
- 淀屋橋駅からの道すがら、あえて一本裏道に入って迷い込んでみて。
- 朝食のメニューにあるアイコンは無視して、直感で選ぶのが正解だよ。