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濡れたスニーカーが廊下で鳴らす、妙なリズム

濡れたスニーカーが廊下で鳴らす、妙なリズム

ロビーに足を踏み入れた瞬間、雨を含んだコンクリートの冷ややかな匂いが鼻をくすぐった。外は激しい雨で、視界が白く霞んでいる。誰かが「絶対誰か忘れ物する」と不吉な賭けをしていたが、結果的に三人全員が充電器を忘れるという快挙を成し遂げた。濡れたスニーカーが歩くたびにキュッキュッと鳴り、静かな空間に愉快なリズムを刻む。雨の日の始まりとしては最高に効率が悪いが、心地よい滑り出しだった。



指先に残る、揚げたてのサーターアンダギーのじゅわっとした油の感触。黄金色に輝く小さな球体を口に運ぶと、外側はカリッと心地よい音を立て、中は驚くほどしっとりと甘い。じわっと広がる砂糖の熱が、雨で冷え切った身体の芯まで溶かしていく。隣で友人が「これ、カロリーえぐくない?」と呆れたように呟いたが、私たちの手は同時に次のひとつへと伸びていた。


「完璧なスケジュールを組んだ」と豪語していたリーダーが、雨に打たれて絶望した顔で、ふやけた地図を凝視していた。私たちはその情けない背中を全力で笑い飛ばした。「まあ、雨の日の那覇を攻略するっていう新プランに切り替えればいいじゃん」なんて言いながら。結局、予定していた観光地にはひとつも行かなかったが、ホテルのラウンジでとりとめもなく話していた時間が、何よりも贅沢な旅の記憶になった。


ロワジールホテル 那覇 / LOISIR HOTEL NAHAのプールに飛び込んだ瞬間、外のむせ返るような湿度を完全に忘れた。水の中に潜ると、世界から喧騒が消え、自分の鼓動だけが深く、静かに響く。ふと顔を上げると、水面に友人がひどく間抜けな顔でこちらを覗き込んでいた。そのあまりにくだらない表情に、私たちは同時に噴き出した。激しい水しぶきが視界を遮り、笑い声だけが青い空間に心地よく反響していた。


バルコニーから眺めた那覇港の夜景。遠くでゆっくりと点滅する貨物船のライトが、まるで誰かが秘密の合図を送っているみたいに見えた。夜の空気は重たく、湿った絹のように肌にまとわりつく。けれど、その重さが不思議と心地よくて、私たちは言葉を交わさずに、ただ暗い海を眺めていた。空白の時間には、どんな饒舌な言葉よりも確かな重みがある。


三重城温泉の湯船に身を委ねると、肌を包み込むお湯の温度が絶妙だった。硫黄のような、どこか懐かしい香りが湯気と共に立ち上り、強張っていた肩の力がふっと溶けていく。タイルの冷たさと、お湯の熱さの鮮やかなコントラスト。ビューバスコーナーキングの部屋で、裸足で歩く廊下のひんやりとした感触を思い出しながら、ただぼーっと天井を眺める。思考が白く溶けていく感覚は、案外悪くない。


ふと見つけた紫陽花が、雨に濡れて深く、濃い色を湛えていた。灰色に塗りつぶされた空の下で、その紫だけが異様に鮮やかで、まるでそこだけ時間が凝縮されているようだった。湿った土の濃厚な匂いと、花びらに溜まった宝石のような水滴。完璧に計画された観光ルートよりも、こういう偶然の景色にこそ、旅の本当の答えが隠れているのかもしれない。


チェックアウトの日、スーツケースに詰め込まれたお土産と、少しだけ増えた体重。旅の終わりはいつも、胸の奥が少しだけ寂しいけれど、それ以上に「生き返った」という確かな感覚がある。雨に濡れて、迷って、笑い転げた数日間。私たちはまた、日常という名の退屈なリズムに戻るけれど、心の中にはあの濡れたスニーカーが奏でた愉快な音が、ずっと残っている。

雨上がりのアスファルトに、小さな虹が掛かっていた。

  • 三重城温泉で芯まで温まってから、バルコニーで夜景に浸るのが正解。
  • プールで全力でふざけ合い、地元の甘いお菓子を頬張るルートが最高。