← 戻る BEB5沖縄瀬良垣 by 星野リゾート

光と音が届くまでの、ほんの少しの空白

光と音が届くまでの、ほんの少しの空白

「もう、いいかな」

「もう、いいかな」
君がそう呟いたとき、指先が浴衣の硬い生地に触れていた。
「いいよ。でも、まだ少し暑い気がする」
私はそう答えて、首筋に張り付いた湿った空気を、ゆっくりと追い出した。
七月の恩納村。夜の気配が、じっとりと肌にまとわりつく。遠くで鳴り響く波の音と、夜の帳に溶け込む蝉の声が、心地よい不協和音となって耳に届いていた。潮風に混じった夜の花の甘い香りが鼻をくすぐり、私たちはどちらからともなく、BEB5沖縄瀬良垣 by 星野リゾートのロビーへと歩き出した。オレンジ色の柔らかな照明が、私たちの影を長く、ゆっくりと地面に伸ばしていた。

不揃いなリズムが溶け合う、静寂の余白

足の裏に触れるタイルのひんやりとした温度が、火照った意識を凪のように静めてくれる。客室のゆんたくスイートに足を踏み入れたとき、ふと目に留まったキッチンや洗濯機の存在に、不思議な安らぎを覚えた。リゾートという非日常の極致にある空間に、あえて「生活」の気配が溶け込んでいること。それは、旅という浮遊感の中に、誰かと共に暮らすという日常をそっと混ぜ込む、贅沢な実験に似ていた。洗濯機が刻む低く静かな振動は、まだ見ぬ二人の未来の鼓動のように聞こえて、なんだか可笑しく、そして愛おしかった。

まったりラウンジのソファに深く身を沈めると、焙煎されたコーヒーの深い苦みが鼻腔をくすぐり、張り詰めていた心がゆっくりとほどけていく。地元で買ったサタアンダギーを口に運べば、外側のカリッとした快い食感と、中のしっとりとした素朴な甘さが舌の上で踊った。完璧ではないけれど、どこか安心する。その味わいは、今の私たちの不器用な関係に似ていた。

ふと夜空に上がった花火の光が視界を鮮やかに染め、数秒の空白を経て、地響きのような音が追いかけてくる。光が先に届き、音が後から来る。その心地よいタイムラグに、私は君の肩の確かな温もりを感じていた。感情が言葉になるまでの空白こそが、今の私たちには必要だったのかもしれない。

庭園の深い緑が夜の闇に溶け込み、屋外プールに反射する光が、水面で宝石のように小さく揺れている。深夜のプールサイドを歩くと、裸足に触れるコンクリートの温度が、ちょうどいいぬるさで心地よかった。誰にも邪魔されない、けれど孤独ではない。そんな絶妙な距離感が、ここにはあった。私たちはここで、ただ隣にいることの心地よさを、ゆっくりと学習していた。言葉を尽くして理解し合うことよりも、同じ温度の風に吹かれ、同じリズムで呼吸をすること。そんな、名前のない親密さが、この空間に満ちていた。

花火の残響が遠ざかり、繋いだ手のひらから、ゆっくりと体温が溶け合っていく。

  • 深夜のラウンジで、あえて何も話さずに、同じ方向の夜空を眺めてみて。
  • 朝一番の静かなビーチで、波の音と、お互いの呼吸だけを数えてみて。