← 戻る 琉球温泉 瀬長島ホテル

飛行機の音が、お湯の波に溶けて消えた夜

飛行機の音が、お湯の波に溶けて消えた夜

12月の風は、予想以上に鋭く襟元に忍び込む。潮の香りが鼻腔をくすぐり、沖縄の地に降り立ったことを改めて突きつけられた。そんな中、「誰が水着を忘れるか」という、大人の遊びにしてはあまりに幼稚な賭けをしていた。結果、一番自信満々に準備を整えたはずのあいつが、真っ白な顔でバッグの中を漁っていた。


ジューという激しい音と共に、沖縄県産和牛の脂が黄金色に弾ける。口に運べば、濃厚な温度が舌の上でゆっくりと溶け、心地よい充足感が胃の奥まで浸透していく。クリスタルグラスに当たった氷が、乾いた高い音を立てて踊っていた。
「エアポートビューって、結局は誰かがどこかへ行くのを眺めてるだけじゃない?」 「オーシャンビューは、ただ水が動いてるのを眺めてるだけ。どっちも似たようなもんだよ」 琉球温泉 瀬長島ホテルにチェックインし、クラブフロア按司の贅沢な空間で、私たちはどちらの景色が「勝ち」かを、不毛ながらも真剣に議論していた。
ウミカジテラスまで歩く、わずか1分の道のり。気合を入れて履いたピンヒールが、舗装路の小さな隙間に残酷に挟まる。派手なクリスマス衣装に身を包み、途方に暮れて立ち尽くす友人の背中。その滑稽さと、冬の沖縄の柔らかな日差しが混ざり合って、私は堪えきれずに吹き出した。
龍神の湯に身を沈めた瞬間、肩に凝り固まっていた日常の重みが、ゆっくりと湯に溶け出していく。白い湯気に包まれ、視界が淡く濁る。誰が何を喋っているのかさえ曖昧になり、ただお湯が揺れる微かな音だけが、耳の奥で心地よく共鳴していた。
裸足で踏みしめたタイルの、ひんやりとした硬質な感触。ベッドのシーツが、吸い付くように肌に馴染む。深夜3時、静寂に包まれた部屋でトイレまで歩く歩数は、正確に12歩。その短い距離が、今の自分の世界のすべてであるかのような錯覚に陥った。
カウントダウンが始まる直前、ちょうど頭上を巨大な機体が低空で通り過ぎた。鼓膜を震わせるエンジンの重低音が、胸の奥まで小さく揺らす。それは、新しい年が強引に幕を開ける合図のように聞こえた。
チェックアウトの際、指先に微かに残っていた石鹸の清潔な香り。帰りたくないという、形のない切なさに具体的な手触りがあるとするなら。それはきっと、この島の砂のような、ざらついた、けれど温かい感触だったはずだ。

遠くで、また一台の飛行機が青い空へ溶けていった。

  • ウミカジテラスまで、あえて一番不便な靴で歩いてみて。
  • 龍神の湯で、何も考えずにただお湯の温度だけを感じてほしい。