← 戻る ホテル グラン コンソルト 那覇

氷が溶ける音だけが、二人の間に流れていた

氷が溶ける音だけが、二人の間に流れていた

裸足で踏み出したアイボリー色のタイルのひんやりとした温度が、まだ微睡みのなかにいた意識をゆっくりと呼び覚ます。もこもことした厚手のスリッパに足を入れると、その柔らかな感触が、外界から切り離された心地よい孤独を演出していた。ホテル グラン コンソルト 那覇の白い廊下を歩くとき、自分の足音さえもどこか遠くの誰かの記憶のように静かに響く。窓の外からは、五月の那覇特有の、肌にまとわりつくような湿り気を帯びた海風が忍び込み、新緑の濃い匂いと遠くで鳴る車のクラクションが混ざり合って、私たちの間に心地よい緊張感を運んできた。二階のラウンジに降り立つと、そこには「スパイスモーニング」の芳醇な香りが満ちていた。ターメリックやクミンの温かく刺激的な香りが鼻腔をくすぐり、まだ半分眠っている心に静かな火を灯す。黄金色に輝く料理が並ぶプレートを前にして、「美味しいね」と短く交わした言葉さえも、今の私たちには十分すぎるほどの対話だった。もしかしたら、私たちはまだお互いの本当の歩幅を知らないのかもしれない。けれど、その「分からない」という空白が、今は珊瑚の隙間に溜まる静かな海のように、愛おしく感じられた。ダブルルームに戻ると、限られた空間が、かえって私たちを親密な距離へと押しやる。四つのゾーンに分かれた照明を一つずつ消していくとき、部屋の隅に溜まっていく静寂が、心地よい重さを持って私たちを包み込んだ。夕暮れ時、再びラウンジへ向かう。クラブフロアだけの特権であるカクテルタイム、グラスの中で琥珀色の液体と共に氷がカランと鳴る音が、静かな空間に波紋のように広がっていく。グラスの縁に結露した水滴がゆっくりと滴り落ちる様子を眺めながら、私はふと思った。私たちの関係は、今のところ水滴の表面張力のようだと。触れればすぐに壊れてしまいそうなほど繊細で、けれどその緊張感があるからこそ、今この瞬間を大切に繋ぎ止めていられる。そんな思考に耽っていたとき、ふと足元を見ると、もこもこしすぎて左右の区別がつかないスリッパを、私は左右逆に履いていた。それに気づいたあなたが「ふふっ」と小さく吹き出し、私もつられて笑う。その拍子に肩が触れ合い、表面張力だったはずの距離が、不意に溶けて混ざり合った。それは計画されたロマンスよりもずっと誠実な、小さな幸福だった。夜が深まり、再び部屋の静寂に戻ったとき、窓の外には那覇の街の灯りが滲んで見えた。明日どこへ行くか、何を見るか。答えはまだ出ないけれど、それでもいい。隣にいるあなたの呼吸のリズムが、少しずつ私のものと重なっていくのを感じていた。翌朝六時、カーテンの隙間から差し込んだ光が、白いシーツの上に細い線を描いていた。その光の粒子が舞う空間で、私たちはただ、そこに在ることを許し合っていた。

  • 2階のラウンジで、あえて目的を決めずに時間を過ごし、お互いの呼吸の速度を合わせてみる。
  • クラブルームのバスローブに身を包み、夜の那覇の街灯を眺めながら、とりとめもない会話を楽しむ。