「2月の沖縄が夏みたいなもん」って言ったの誰だっけ?
「いい?今から海に入る。10秒耐えられた方が勝ち。賭ける?」
「正気?見てよこの風。絶対無理だって!」
「えー、だって〇〇が『2月の恩納村はほぼ夏』って言い切ったじゃん。ほら、早く準備してよ」
「いや、あれはあくまで平均気温の話で……っ!」
「言い訳禁止!ほら、行くよ!」
刺すような潮風に煽られながら、私たちは互いの背中を押し合い、半ば強引に波打ち際へと突き進んだ。足を入れた瞬間に全員が「ひゃっ!」と短い悲鳴を上げ、そのまま砂浜に転がった。冷たい海水が皮膚に突き刺さる衝撃に、笑いと絶叫が混ざり合う。誰が一番先に諦めたか、結果的に誰も覚えていなかったけれど、凍えるような寒さと、その後にやってきた変な高揚感だけは、最高の共有体験になった。
喧騒のあとに残る、半透明の静寂
ホテルみゆきビーチの部屋に戻ると、そこには外の騒がしさをすべて吸い込んだような、不思議な静けさが広がっていた。和洋室という構成が、私たちのバラバラな性格をちょうどよく収めてくれる。ベッドで大の字になって寝転がる奴と、畳の上にどさっと座り込んで、濡れた髪から滴る水を床に散らしている奴。そんな混沌とした光景が、この部屋のゆとりある広さにはちょうどいい。
窓から差し込む午後の光は、まるで波に揉まれて角が取れた、すりガラスのような破片に似ていた。鋭さはなく、けれど確かな重みを持って、部屋の隅々まで淡い青を塗り広げていく。オーシャンビューの特等席であるバルコニーに出ると、手すりには薄っすらと白い塩の結晶がついていた。指先で触れると、少しだけザラついていて、それがこの場所が海にほど近いことを、皮膚感覚で教えてくれる。遠くで聞こえる規則的な波の音が、高ぶっていた神経をゆっくりと凪の状態に戻していく。
畳のい草の香りと、誰かが開けたコンビニのお菓子の甘い匂いが混ざり合う。そんな、生活感に溢れた空気がたまらなく心地よかった。完璧に整えられたラグジュアリーさよりも、こういう、少しだけ隙がある空間の方が、私たちは素直な顔になれるのかもしれない。ベッドから窓まで、ゆっくりと四歩。その短い距離を歩くたびに、外の海の色が少しずつ濃くなっていくのがわかった。私たちは、計画していた観光スポットの半分も回れなかったけれど、この部屋でくだらない言い合いをしながら過ごした時間の方が、ずっと密度が高かったように思う。
湯気の中で、少しだけ正解を諦める話
「……まあ、結局全部計画通りにいかなかったけどさ」
大浴場の、熱い湯気に包まれた空間。視界がぼんやりとして、隣に座っている友人の輪郭も曖昧になっている。昼間の騒がしさが嘘のように、声のトーンが一段低くなる時間だ。湿った空気が肌にまとわりつき、心地よい重みとなって心まで解きほぐしていく。
「いいじゃん。あそこの店、閉まってたし。道も迷ったし。最高に効率悪かったね」
「本当だね。でも、あの迷った道にあった名もなき海岸、あそこ、結構いい感じだった」
「だよね。……なんか、正解を探して旅してると疲れるし。こういう、適当な感じの方が、自分たちらしい気がする」
お湯の温度がちょうどよく、凝り固まった肩の力が抜けていく。誰かがふっと笑い、その音が白い湯気に溶けて消えた。私たちは、お互いの欠点を笑い合い、失敗を共有することで、ようやく本当の意味で繋がれたのかもしれない。不完全であることの心地よさを、この温かい湯船の中で、静かに受け入れていた。
オレンジ色に溶け出した水平線が、ゆっくりと夜に飲み込まれていくのを、ただ眺めていた。
- 部屋のバルコニーから海を眺めながら、地元のサーターアンダギーを頬張る時間をぜひ。
- プライベートビーチでのシュノーケリングは、2月でも透明度が高く、魚たちの色彩に驚かされます。