← 戻る パレスインムーンビーチ(旧ムーンビーチパレスホテル)

濡れたサンダルと、誰のせいか分からない笑い声

濡れたサンダルと、誰のせいか分からない笑い声

エアコンの冷気が、湿った肌にまとわりつく。不快じゃない。むしろ、これでいい。外の空気は、呼吸するだけで水分を摂取できるレベルに飽和していたから。私たちは、パレスインムーンビーチに到着してすぐに、ある種の賭けをしていた。誰が一番早く3階のフロントに辿り着けるか。結果。全員が迷った。

私たちがこのホテルで試した「作戦」と結果

グリーンカーテンを道標にする迷宮脱出: エントランスからフロントまで、地図を持たずに直感で進む作戦。結果は惨敗。立派な植物に惑わされ、同じ廊下を三回往復した。でも、その時に見つけた名もなき小さな花に、誰かが「似てるね」と言って笑った。その瞬間だけは、迷った甲斐があった気がする。

雨の日のオーシャンビュー観賞: 窓の外が真っ白な雨に包まれている時、あえてテラスに出る作戦。結果は、想定以上の大惨事。一瞬で服が湿り、誰かが「これ、ただのシャワーじゃん」と吐槽した。けれど、雨に煙るエメラルドグリーンの海は、晴天の時よりもずっと静かで、私たちの話し声を吸い込んでくれた。

コラーロでのブッフェ戦略: 誰がどの料理を確保するか、役割分担を決めて挑む作戦。結果は、作戦崩壊。美味しい匂いに誘われて、全員が同じタイミングで和琉料理に殺到した。皿の上に積み上がった料理の山を見て、私たちは互いに呆れながら、同時に口いっぱいに頬張った。味覚だけは、完璧に同期していた。

深夜2時のコンビニ遠征: ホテルから徒歩2分のローソンまで、誰が一番静かに歩けるか競う作戦。結果は、途中で誰かが派手にサンダルを脱ぎかけて転倒し、爆笑。静寂を破る笑い声が、夜の恩納村に響いた。結局、買ったのは大量のアイスと、誰が食べるかも決めていないお菓子。それが正解だった。


旅のスコアボード

結局、一番価値があったのは、あの「シンプルすぎる」部屋だったのかもしれない。45平米の空間に、クイーンベッドがどっしりと鎮座している。豪華な装飾なんてない。けれど、だからこそ、そこに持ち込んだ私たちの騒がしさが、ちょうどいい密度で充満した。

誰かが寝返りを打つたびに軋むベッドの音。深夜まで止まらなかった、とりとめのない議論。豪華なスイートだったら、きっと私たちは「お行儀よく」過ごしていただろう。でも、ここでは裸足でタイルを歩き、適当に荷物を散らかし、ただそこにいることだけを許されていた。

一番のジョークは、私たちが「効率的な旅」を計画していたことだ。結果として、一番記憶に残っているのは、効率とは程遠い、あの3階への迷走っぷりだった。雨に濡れたサンダルの不快感も、ブッフェでの混乱も、今となっては、この旅の輪郭を形作る大切な線になっている。

パレスインムーンビーチという場所は、私たちに「何もないことの心地よさ」を教えてくれたというか、あるいは、私たちがもともと持っていた「適当さ」を肯定してくれただけなのかもしれない。どちらにせよ、あの部屋で過ごした時間は、どんな高級なアメニティよりも、私たちの間に深く沈殿した。


雲の隙間から、不意に差し込んだ光が、濡れた路面を白く光らせていた。
  • 3階のフロントまで、あえて目隠しをして辿り着けるか挑戦してみてほしい。
  • 雨の日こそ、あえてビーチサイドのテラスで、冷たい飲み物を飲みながら海を眺めてほしい。