真夜中に、誰が食欲を呼び覚ましたのか
6月の台北は、空気そのものが濡れた厚手のタオルのように肌にまとわりつき、呼吸をするたびに肺の奥まで重い湿気が入り込んでくる。新北美術館で開催された夏至音楽祭の喧騒と、耳に残る残響を抱えたまま、私たちは心地よい疲労感と、旅先特有の些細な言い争いによる気まずさを連れて、旅居文旅旅居文旅-台北松山機場館のロビーに滑り込んだ。冷房の鋭い冷気が、火照った皮膚を心地よく撫で、その温度差にようやく自分が「外」の混沌から「中」の静寂へと戻ってきたことを意識した。もともとは、誰一人として何かを食べる気なんてなかったはずだ。けれど、部屋に入り、ふと訪れた沈黙の中で誰かが「お腹空いた」と小さく呟いた。その一言が、静まり返った空間に共鳴し、気づけば私たちは誰が言い出したかもわからないまま、濡れた靴を鳴らして近くのコンビニへと走り出していた。雨上がりのアスファルトから立ち上る白い蒸気が、夜の街を幻想的に塗り潰していた。
黄金色の夜食と、不器用な本音
「ねえ、信じられないと思うけど、さっきのショートカットのせいで、私たち合計で三キロは余計に歩いたよね」
ベッドの上に広げられたコンビニの袋から、香ばしい匂いを漂わせる黄金色のフライドチキンを取り出しながら、友人が呆れたように笑った。私たちは、旅居文旅旅居文旅-台北松山機場館の部屋にある、ひんやりとした感触のタイルの床に直接座り込んでいた。裸足で触れるタイルの冷たさが、足裏からゆっくりと体温を奪っていく。それが心地よくて、私たちは自然と肩を寄せ合った。
「いいじゃん。おかげで、あの路地裏にあった奇妙な形の看板が見られたし。あれ、絶対誰かがわざと置いたやつだよ」
「いや、あれはただのゴミだったと思う。っていうか、君が『こっちが早い』って言い切ったから信じたのに。結果的に、音楽祭のメインステージに辿り着いたときには、もうお気に入りのバンドの演奏が終わってたし。誇張抜きで最悪だったよ」
「あはは、ごめんって。でも、あの後の絶望した顔、最高に面白かったから。賭けてもいいけど、あの時の君の顔を写真に撮ってたら、間違いなく今回の旅行のベストショットになってたね」
私たちは、濃厚なマンゴーのムースをスプーンで掬いながら、互いの失敗を笑い合った。口の中に広がる暴力的なまでの甘さが、疲れ切った脳にじわじわと染み渡る。卒業という、人生の大きな区切りを前にして、私たちは何をそんなに恐れていたのだろう。将来のことや、離ればなれになる不安。そんな重い話をする代わりに、私たちは「誰が一番たくさん歩いたか」とか「誰が一番コンビニで無駄遣いをしたか」という、どうでもいいことで時間を埋めた。言葉にしていないけれど、このくだらない会話こそが、今の私たちにとって一番必要な防波堤だったのかもしれない。
「っていうか、このホテル、本当に飛行機の音が聞こえるね。なんか、今ここにいるのに、同時にどこか遠くへ運ばれているみたいな気分になる」
「それ、わかる。落ち着かないけど、不思議と安心するよね。誰かが常にどこかへ向かってるっていう音がしてるから」
満腹の後に訪れる、凪のような時間
夜食の袋が空になり、部屋の中には甘い香りと、心地よい静寂だけが残った。エアコンの低い唸り音が、一定のリズムで空間を支配している。私たちは、そのまましばらくの間、何も話さずに天井を眺めていた。窓の外には、旅居文旅旅居文旅-台北松山機場館から望む都会の夜景が広がっており、時折、遠くで車のクラクションが鳴り、街の呼吸が聞こえてくる。清潔な白いシーツに身を沈めると、身体の輪郭がゆっくりと溶けていく感覚があった。
空腹が満たされると、不思議と心の中に小さな隙間ができる。その隙間には、寂しさではなく、ただ穏やかな受容のようなものが流れ込んできた。私たちは完璧な旅をしたわけではない。計画はめちゃくちゃだったし、道に迷ったし、お互いに文句ばかり言っていた。けれど、その不完全さこそが、私たちの関係性の正体なのだという気がする。正解を求める旅ではなく、ただ一緒に迷い、一緒に笑い、一緒に疲れる。そんな時間が、何よりも贅沢に感じられた。
ふいに、また飛行機の音が聞こえてきた。今度はゆっくりと、高度を下げていくような、低い響き。その音が完全に消えるまで、私たちは誰一人として、電気を消そうとしなかった。暗闇になるのが怖かったわけではない。ただ、この心地よい静寂と、隣に誰かがいるという確信を、もう少しだけ長く保持しておきたかっただけなのだと思う。
枕元で、最後の一口のマンゴーの味が、かすかに残っていた。
- セブンイレブンのマンゴーかき氷。口の中で溶ける瞬間の濃厚な甘さが、疲れた心に効く。
- 地元の夜市で買った大ぶりの鶏排。部屋で温め直して食べる背徳感がたまらない。