5年後の私たちへ。覚えているかな、5月の新北に計画もなく飛び込んだあの日のことを。湿気で前髪は台無し、傘を差していたのにずぶ濡れ。でも、あの絶望的なまでのジメジメ感さえ、今は心地よい記憶として胸にある。
5年後もきっと、笑いながら思い出すはずの断片
海蜇皮の弾力と、皿の上で繰り広げられた静かな戦争
白金花園酒店で出会ったあの前菜。ツンとした酢の香りと共に運ばれてきた海蜇皮の、コリコリとした快い食感に、誰が一番多く食べたかを賭けて競い合ったよね。結果的に一番の食いしん坊が完勝したけれど、口いっぱいに広がる絶妙な酸味と、箸が止まらなかったあの高揚感は、今でも舌の端に残っている気がする。
完璧な正装の隣で、ボロボロのTシャツで立っていたロビーの違和感
ロビーには、結婚式を控えた幸せそうなカップルや、アイロンがピシッと効いたスーツの人たちが溢れ、辺りには清楚な百合の香りが漂っていた。その中で、泥跳ねがついたスニーカーで立ち尽くし、「私たち、場違いすぎない?」と小声で笑い合った瞬間。磨き上げられた大理石の床に映る自分たちの不格好さが、なんだか最高に贅沢な遊びのように感じられた。
外気30度の湿気から、氷点下のような冷房へ飛び込んだ時の衝撃
外を歩いている時は、空気が重たくて、まるで温かい濡れたタオルに全身を包まれているみたいだった。けれど、モダンな客室のドアを開けた瞬間、肌を刺すような冷たい空気が駆け抜け、一気に意識が覚醒した。冷房が効きすぎた部屋にダイブし、ひんやりとした上質なシーツにくるまりながら「もう二度と外に出たくない」と誓い合った、あの至福の倦怠感。
暗闇の中で、小さな光を追いかけて迷い込んだあの道
ホテルの無料シャトルバスを降りて、螢火蟲(ホタル)を探しに夜の道を歩いたこと。足元はぬかるみ、湿った土の匂いが鼻をくすぐる。ふとした瞬間に視界に入った小さな緑の光。それが本物なのか、それとも誰かのいたずらなのか、答えは出なかったけれど、もどかしそうに暗闇を覗き込んでいた私たちの横顔だけは、はっきりと記憶に刻まれている。
5年後の封印を解いたときに見える景色
5月の新北の空気は、気圧が低くて、なんだか心まで少しだけ重たくなる。でも、その重さが、バラバラに生きている私たちを、物理的に一つの場所に繋ぎ止めてくれていた気がする。きっと5年後、この記録を読み返したとき、旅のルートや訪れた場所の正確な名前は忘れているかもしれない。けれど、濡れた靴下で歩いた廊下の感触や、深夜3時に白金花園酒店のベッドで、とりとめもなく将来の不安を話し合ったあの温度だけは、鮮明に蘇るはずだ。思い出とは、出来事ではなく、その時の空気の密度のことなのだと思う。
玄関の隅で、半分乾ききっていない青い傘が、静かに壁に寄りかかっている。
- 白金花園酒店に泊まるなら、ロビーの静謐さと自分のカジュアルさのギャップを楽しんでみて。
- 5月の新北を歩くなら、あえて完璧な防水靴を捨てて、ぬかるんだ道を誰と歩くかに集中して。