← 戻る 那須いちやホテル

浴衣の袖が、少しだけ長すぎた午後

那須の風が運んできた、家族の記憶を綴る五つの音

ペタペタと、濡れたサンダルがロビーの床を叩く軽快な音。末っ子がどこで水溜まりを見つけたのか、ずぶ濡れの足で無邪気に駆け抜けていく。「もう、どこで濡らしてきたの!」と笑いながら追いかける時間は、旅の始まりに特有の心地よい混乱に満ちていた。この不規則なリズムこそが、今の私たちにとって何より贅沢な家族の鼓動なのだと感じる。

シャカシャカと、ホイッパーがボウルを叩くリズミカルな音。キッチンギャラリーYOTTEKOでは、パティシエが魔法のようにスイーツを仕上げていた。甘いバニラの香りがふわりと漂い始めると、上の子が食い入るようにその手つきを見つめ、「次は何を作るのかな」と小さな声で呟く。移動の疲れが、期待という名の淡い光に溶けて消えていく瞬間だった。

ザパーンと、湯船から溢れ出したお湯が夜気に触れる豪快な音。屋上の絶景露天風呂「NASUYAMA」で、夫が盛大に足をバタつかせ、日々の緊張を解き放っている。視界に広がる那須連山の稜線が深い藍色に染まり、頬を打つ涼やかな夜風と熱い湯の温度差が、凝り固まった心身をゆっくりと解きほぐしていく。那須いちやホテルの和モダンな空間に身を委ね、私たちはただ静かに、山の呼吸に耳を澄ませていた。

ササッ、と浴衣の袖が廊下の壁に擦れる乾いた音。娘が背伸びをして「大人っぽく」歩こうとしているが、選んだ浴衣の袖が少しだけ長すぎて、歩くたびに小さな手が隠れてしまう。「見て、お母さんみたいでしょ?」とはにかむ笑顔に、ふふっと笑いが漏れた。完璧ではない、その不器用で愛おしい成長の跡が、旅の景色をより鮮やかに彩ってくれる。

パキッ、と新鮮な卵の殻が割れる、小さく鋭い音。朝食の時間、那須御用卵が黄金色の輝きを放ちながら、炊きたての白米の上に滑り落ちる。湯気の向こう側で、家族全員が言葉を忘れ、ただ目の前の贅沢な味わいに集中している。静寂の中に満ちる幸福感。こうした何気ない断片の積み重ねこそが、旅という名の本当の正体なのだろう。

夕暮れの山並みを背景に、不揃いな歩幅で歩く四人の影。

  • 早朝の貸切露天風呂で、関東平野に朝日が昇る瞬間を静かに眺めてみてほしい。
  • 子供と一緒に、自分たちにぴったりの色や柄の浴衣をじっくり選ぶ時間を大切に。