午前二時、空腹という名の共犯者
五月の夜気はしっとりと肌にまとわりつき、温度はちょうど十九度あたりだっただろうか。JR津山駅を降りてから「ホテルルートイン津山駅前」まで歩くわずか二分という距離。その短い道のりで、私たちは誰が一番先に限界を迎えて寝落ちするかという、どうでもいい賭けをしていた。結果は全員完敗。濡れたアスファルトに反射する街灯のオレンジ色が、現実味のない幻想的な光を投げかけていた。
誰が言い出したのかも分からないまま、私たちは磁石に引き寄せられるようにコンビニへと足を踏み入れた。手に持ったビニール袋が、歩くたびにカサカサと乾いた音を立てる。その音は、静まり返った津山の街に不釣り合いなほど賑やかで、なんだか大人のルールを破っているような、心地よい背徳感に似ていた。袋の中には、揚げたてのファミチキと、誰かが言い出した謎の量のお菓子、そして喉を焼く冷えたハイボールの缶。夜風に混じって漂う藤の花の甘い香りが、私たちの期待感をさらに煽る。ビジネスホテルの自動ドアが開くときの、あの独特な空気の入れ替わり。それが、深夜の宴の開始を告げる合図だった。
畳み込まれたベッドの上で交わされる本音
「ねえ、このデラックスツインルームのベッドに三人で集まろうとするの、無理があると思わない?」
誰かが苦笑いしながら、無理やりベッドの端に腰掛けた。足元のカーペットがふわりと沈み込む感触。部屋の照明を落とし、間接照明の心許ない琥珀色の光の中で、私たちは戦利品の袋を広げた。プラスチックが裂ける鋭い音が、静まり返った部屋に心地よく響く。
「っていうか、さっきの藤の花のトンネル、本当に紫色の壁に囲まれているみたいだったよね。あんな景色、日常のどこにもないよ」
「そんなことより、このチキン見てよ。もう冷めてるけど、深夜に食べるから最高に美味い。君の計画性のなさが、結果的にこの最高のタイミングを生み出したわけだね」
「は? 誰が計画したよ。そもそも、駅前でホテルを取るっていう正解に辿り着いた私に感謝してほしいんだけど」
そんなくだらない言い合いをしながら、私たちは狭いスペースに身を寄せ合った。ある人がポテトチップスの袋を開けようとして、指に力が入りすぎて中身を半分ほどベッドにぶちまけた瞬間、部屋は一気に爆笑に包まれた。後で掃除するのが面倒だという現実よりも、その場の滑稽さが勝る。それは日常では絶対にやらない「正解のない行動」への快感だった。私たちは互いの失敗を肴に、冷えたハイボールを飲み干した。笑いすぎて呼吸が浅くなる。けれど、その心地よい疲労感こそが、この旅を「私たちらしい」ものにしていた。
喧騒が引いた後の、心地よい空白
最後の一片のチップスが消え、会話のテンポがゆっくりと落ちていく。部屋の中には、エアコンが低く唸る一定の周波数だけが残り、さっきまでの賑やかさが嘘のように深い静寂が訪れた。けれどそれは寂しさではなく、お互いの存在を信頼して共有できる、とても贅沢な空白だった。
窓の外を見ると、津山の街を包む新緑が、夜の闇に溶け込んでいた。昼間見たあの鮮やかな緑は、今は深い紺色に変わっている。それはまるで、街の隙間を縫って静かに、けれど確実に領土を広げていく藤の根のように、私たちの記憶にも深く入り込んできた気がする。誰かが小さくあくびをした。その音が合図となり、私たちはゆっくりと眠りへと誘われる。
セミダブルのシーツの、少しパリッとした冷たい感触が肌に触れる。広いスイートルームのような贅沢さはないけれど、この適度な密閉感と、隣に誰かがいるという温度感こそが、今の私たちには必要だった。完璧なプランよりも、こういう不完全な夜があるから、また次も一緒に旅に出たいと思うのかもしれない。
カーテンの隙間から、街灯のオレンジ色の光が一本の線になって床に伸びていた。
- 駅前のコンビニで、地元のお菓子を適当に買い込んで部屋でシェアすること
- 深夜、あえて靴を脱いで、ホテルの廊下の温度を確かめながら自販機まで歩くこと