← 戻る ホテルJALシティ名古屋 錦

白いベッドの上で、肩が触れるまでの距離

「足、疲れてない?」

「少しだけ」と君が小さく笑い、私のコートの袖を指先で軽く引いた。その手の温もりが、冷えた空気に触れていた私の心にじわりと広がる。

「静かだね、ここ」

「うん、本当に」

重いドアが閉まった瞬間、名古屋の喧騒が遠い国の出来事のように消え去った。プラスチックのカードキーをテーブルに置いたときの、硬く乾いた音が静寂に波紋のように広がる。その音こそが、私たちがようやく二人だけの聖域に辿り着いたことを告げる合図のように聞こえた。

静寂に溶け合う、二人の温度

伏見駅からホテルへと向かう道すがら、四月の風がいたずらに頬を撫で、コンクリートの隙間から強かに咲く桜が視界に飛び込んできた。都会の無機質な景色の中で、無理やり顔を出して咲き誇るその強さに、なんだか救われた気がした。私たちの関係も、きっとそういうものなのだろう。最初から完璧な花を咲かせるのではなく、暗い土の中でじっと時間をかけ、小さなひび割れを探しながら根を伸ばしていく。そんな、不器用で静かな成長を積み重ねてきた。

ホテルJALシティ名古屋 錦のプレミアクイーンの部屋に足を踏み入れると、そこには余計な音が一切ない、研ぎ澄まされたモダンな空間が広がっていた。空気清浄機の低い唸りだけが心地よいリズムを刻み、都会の喧騒を完全に遮断している。シモンズ社製ベッドに深く体を預けると、計算された適度な反発力が、一日中歩き回ったふくらはぎの強張りをゆっくりと解きほぐしていく。白いリネンのひんやりとした感触が肌に触れ、それが次第に体温で温まっていく心地よい変化に、隣にいる君の存在をより強く意識した。私たちはまだ、お互いの心地いい距離を慎重に探っている途中なのだと思う。

独立したバスルームでレインシャワーを浴びれば、太い水滴が心地よい圧力で肩を叩く。海藻由来の成分が含まれたアメニティの香りが、指の間で小さく弾け、凪いだ海のような清涼感とどこか懐かしい安らぎを運んできた。タイルのひんやりとした温度が裸足の裏から伝わり、水流に身を任せているうちに、心の中に凝り固まっていた緊張が、ゆっくりと溶け出していくのが分かった。

ふと思い出したのは、夕食に堪能した味噌カツの濃厚な味わいだ。甘辛いタレが口いっぱいに広がり、熱い白米と共に飲み込むたびに、身体の芯から熱が灯る。少し塩気が強かったけれど、それがかえって心地よく、私たちは言葉少なに頷き合った。特別な会話がなくても、同じ味を共有しているという事実だけで、十分な充足感に満たされていた。

実はホテルに着く前、私はかっこつけて先導したつもりだったが、道端の桜に見惚れて入り口を二回も通り過ぎていた。君に「あっちだよ」と小さく指をさされたとき、恥ずかしさよりも、なんだか可笑しくてたまらなくなった。そんな小さな綻びがあるからこそ、隣にいるのが心地いい。完璧な案内人になれなかったことが、今の私にはちょうどいい。

窓の外には、宝石を散りばめたような名古屋の夜景が広がっている。遠くに見えるテレビ塔の光が、ゆっくりと点滅しながら街を見守っていた。私たちはまだ、お互いのすべてを理解したわけではないし、明日にはまた些細なことで言い合いをするかもしれない。けれど、この部屋の深い静寂の中では、ただ呼吸が重なるだけで十分な気がする。空白があるからこそ、そこに何を書き込むかを一緒に考えられる。このスマートでコンパクトな空間が、かえって私たちの心の距離を密接に結びつけていた。

カーテンの隙間から差し込む街灯が、君のまつ毛に小さな光の粒を落としていた。

  • 明日の朝は少し早起きして、まだ誰もいない名古屋城の道をゆっくり歩かない?
  • チェックアウトまで、この心地いいベッドで、もう一度だけ深く眠り合おう。