← 戻る ニッコースタイル名古屋

午前三時の、誰のものか分からない靴

私たちの「大人の幼稚さ」を静かに見守っていた5つの証人たち

バンクベッドの梯子:Bunk Room Type Aの部屋に鎮座する、ひんやりとした金属の質感と、登るたびに小さく鳴る「ギィ」というきしみ。誰が上の段に寝るかで、「俺が上がいい!」「いや、ここは譲れない」と大の大人が本気で議論し、最終的に泥沼のジャンケンで決着をつけたあの不格好な時間を記憶している。もしかすると、この梯子は私たちの幼稚さを、心地よいリズムで笑っていたのかもしれない。

GENEVAのスピーカー:胸の奥まで心地よく震わせる重厚な低音と、部屋の空気を塗り替えるような音圧。誰の好みでもないけれど、なぜか全員が乗り合わせてしまった、あの絶望的にセンスの悪いプレイリストを流し続けた夜。音が壁に反射し、部屋の隅々まで満たされるたび、「これ、本当に正解なの?」という困惑さえも笑いに変わり、私たちの会話の密度が少しずつ上がっていった。

朝のコーヒーカップ:指先にじわりと伝わる熱と、鼻腔をくすぐる深く香ばしい焙煎の香り。アラームを完全に無視して二度寝し、予定していた観光プランが完全に崩壊したことに気づいた瞬間の、あの気まずい沈黙。「……まあ、いいか」という誰かの諦め混じりの呟き。カップから立ち上る白い湯気が、私たちの情けない言い訳を優しく包み込んでいた。

屋上テラスの手すり:4月の風に冷やされた鉄の硬い感触と、遠くから聞こえる都市の喧騒。ガイドブックに載っている名所を回る気力が底をつき、「もう今日はいいよね」と全員が合意した瞬間の、心地よい解放感。視界に広がる名古屋の街並みが、ただそこにあるという事実だけが、疲れた心に静かに染み渡っていった。

ホテルのルームキー:プラスチックの硬い感触と、木のテーブルに置いた時に鳴る軽い「カチッ」という音。誰が鍵を持つか決める前に、道端の迷い猫に心を奪われて全員が足を止めた、あの贅沢な空白の時間。「目的地に着くことより、寄り道することに価値がある」と、言葉にしなくても分かち合えた、旅の小さな欠片。

もし、部屋の静物たちが口を揃えて語り出すなら

彼らはきっと、私たちのことを「最高に不器用で、愛すべきチーム」と呼ぶだろう。地図通りに歩くことは一度もなく、自販機の飲み物のどれが一番「地元っぽいか」で言い争い、結局は全員が同じ味を選んで笑い合う。そんな、効率とは程遠い時間。ニッコースタイル名古屋という空間は、有松絞の伝統的な美しさとモダンなデザインが共存するように、私たちの混沌とした笑い声をそのまま受け入れてくれる器だった。洗練されたアートフラワーが彩る静謐な空間と、私たちの雑多なエネルギー。そのコントラストが、不思議と心地よい周波数になっていた。名古屋を旅していたというよりは、お互いの不完全さを再確認し、それを慈しむ旅だったのかもしれない。というか、それが一番贅沢な時間の使い方だったのだと思う。

枕元に舞い落ちた桜の花びらが、夜明けの淡い光に透けていた。

  • ロビーで淹れたての珈琲を啜りながら、あえて目的地を決めない贅沢な時間を。
  • 早朝の名古屋城まで、春の冷たい空気を肺いっぱいに吸い込みながら歩いてほしい。