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冷たい風と、指先のドーナツの甘さ

冷たい風と、指先のドーナツの甘さ

3月の名古屋の空気は、まだ薄い氷の刃を持っている。頬を撫でる風が鋭くて、軽いジャケットを突き抜けて肌に触れるたび、誰かが「やっぱり早すぎた」と口を揃える。そんな中、私たちは賭けをした。誰が一番早く、街のどこかに咲いているはずの「早咲きの桜」を見つけられるか。結果はどうなったと思う。結局、誰も見つけられなかった。でも、その空振りの時間が、この旅で一番心地よかった気がする。

the b 名古屋にチェックインして、まず私たちがやったのは、機能的な設備を確認することではなく、この空間をどう「攻略」するかを話し合うことだった。ベッドからバスルームまで、裸足で歩いてちょうど七歩。その距離を測りながら、私たちはこの部屋を単なる宿泊先ではなく、今回の作戦本部にすることに決めた。180センチ幅のキングベッドに全員でダイブしたときの、沈み込むような柔らかさと、誰の足が誰に当たっているか分からない混沌とした感覚。それが、この旅の始まりの合図だった。

今回のホテルで試した「作戦」と結果

「tottette」のミニドーナツを誰が一番多く運べるか競争
結果は、全員が両手に抱えて部屋に戻り、ロビーに甘い砂糖の匂いを振りまくという大失敗。でも、指先に残ったベニエの温かさと甘さが、冷えた体にじわりと染み渡ったのは事実だ。

桜の開花予想を盲信して、早朝の久屋大通公園へ全力ダッシュ
結果は、花ひとつ咲いていない灰色の景色と、想像以上の寒さに打ちのめされて15分でリタイア。震えながら歩いて戻る道中、お互いの情けない格好を吐槽し合った時間が、実は一番盛り上がった。

4人部屋の大きな天然木のテーブルで「深夜の作戦会議」を開催
結果は、旅の計画を立てるはずが、気づけば3時まで思い出話とくだらない冗談のループに。テーブルの木の質感に触れながら、スマートTVで適当な動画を流していたあの時間は、現代のキャンプファイヤーみたいなものだったのかもしれない。

栄駅まで徒歩3分という距離を、あえて全力で遠回りして歩く
結果は、地図にも載っていないような静かな路地裏を見つけ、そこで不思議な自動販売機に出会うという小成功。効率を捨てた瞬間に、名古屋という街が少しだけ心を開いてくれた気がした。


今回の旅のスコアボード

一番価値があったのは、間違いなくあの木のテーブルを囲んで過ごした時間だ。誰が一番に寝落ちするかという賭けに負けた友人の寝顔を、私たちは静かに観察した。桜探しという目的は完全に失敗だったけれど、その「期待外れ」を共有できたことで、私たちの距離は、ベッドの幅よりもずっと近くなった気がする。結局、完璧なスケジュールなんて、旅においてはただの飾りでしかない。予定通りにいかないもどかしさや、寒さに震えて笑い合う瞬間こそが、この旅のメインディッシュだった。the b 名古屋の静かな空間が、私たちの騒がしさを優しく包み込んでくれていた。そういうバランスが、心地よかった。


深夜3時の部屋に、遠くの街の灯りが薄く差し込んでいた。
  • ランドリールームで服をリセットして、翌朝の「迷子計画」に備えてみてほしい。
  • 真夜中のオアシス21まで、あえて何も決めずに歩いてみることをおすすめする。