真夜中の空腹と、雨に濡れた賭け事
伏見駅からホテルへ向かう道すがら、濡れたスニーカーの底がアスファルトにねっとりと張り付く感覚があった。六月の名古屋の空気は、まるで濡れた厚手のコートを無理やり着せられているみたいに重たく、皮膚の表面がじっとりと湿り気を帯びている。低気圧がもたらす倦怠感の中で、私たちは「どっちが一番『正解』な深夜のおつまみをコンビニで見つけられるか」なんていう、大人のすることとは思えない、けれど至極真面目な賭けをしていた。結果的に、ビニール袋いっぱいに詰め込まれたのは、地元の濃い味がする味噌系のスナックと、見た目だけで選んだ怪しい色のゼリー。ランプライトブックスホテル名古屋 / LAMP LIGHT BOOKS HOTEL nagoyaのロビーに足を踏み入れた瞬間、外の粘りつくような熱気がふっと消え、代わりに古い紙の香りと静かな空調の匂いが鼻をくすぐった。一階の本屋で、直感に導かれるままに選んだ一冊を抱え、エレベーターで上の階へ上がる。その短い時間、私たちはどちらがより「意識高い系」の本を選んだかで、静かに火花を散らしていたのかもしれない。
塩気と本と、心地よい言い訳
「ねえ、このソファ、部屋の面積に対して誇張しすぎじゃない?」
モデレートダブルの部屋に滑り込むなり、プラスチック袋がカサリと乾いた音を立て、ベッドの上にコンビニ菓子が散乱した。もどかしいほどに心地よいオットマンに足を投げ出し、私たちは読みかけの本を適当に開く。照明を落とし、リーディングランプが作り出す小さな黄金色の円の中にだけ、自分たちの世界を閉じ込めた。その光の角度が、ちょうど隣に座る友人の横顔を半分だけ照らしている。
「いいじゃん、このサイズ感。むしろこのソファがこの部屋の地主みたいなもんでしょ」
そんなくだらないやり取りをしながら、味噌味のチップスを口に運ぶ。濃厚な塩気が舌の上で弾け、一日中歩き回った心地よい疲労感が、じわじわと身体の芯に染み込んでくる。私たちは、旅の計画通りに進まなかったことや、駅で迷った時の情けない顔について、互いにツッコミを入れ合った。普段なら「まあいいか」で済ませるような小さな不満も、この薄暗い照明の下では、なんだか心地よいリズムの会話に変わっていく。本の内容なんて、正直に言ってほとんど頭に入ってこなかった。けれど、ページをめくる指のざらついた感触と、時折混ざる笑い声が、この部屋の空気をゆっくりと書き換えていくのがわかった。本を読むことは旅に似ているというけれど、今の私たちは、本を言い訳にして、ただ一緒にいる時間を丁寧に消費していただけのような気がする。
ページを閉じた後の、深い凪
最後の一粒まで食べ尽くし、袋を丸めてゴミ箱に捨てた後、部屋にふっと空白が訪れた。エアコンの低いハム音が、静寂の輪郭をくっきりと描き出している。窓の外では、まだ雨が降り続いていて、時折遠くで車の走行音が濡れた路面を滑っていくのが聞こえる。もしかすると、私たちはこの静けさを求めて名古屋に来たのかもしれない。誰にも邪魔されず、ただ本と、気心の知れた誰かと、適温の空気に包まれること。バルコニーから入り込む夜風が、わずかに肌を冷やし、心地よい眠気が波のように押し寄せてくる。ベッドに潜り込むと、リネンの張り詰めた冷たさが、一日中まとっていた湿気を丁寧に拭い去ってくれる。隣で友人が小さく寝息を立て始めたとき、私は読みかけの本をサイドテーブルに置いた。物語の続きは明日になればいい。今はただ、この密閉された心地よい空間の重みを、全身で受け止めていたいと感じた。
リーディングランプの小さな光が、ゆっくりと夜に溶けていった。
- 名古屋名物の濃厚な味噌味スナック。塩気が深夜の密やかな会話を加速させる。
- コンビニで手に入れた地元の冷えたクラフトビール。本を開く前の最高の導入剤。