← 戻る スタジアムシティホテル長崎

窓辺まで、あと三歩の距離で

窓辺まで、あと三歩の距離で

「きっと、ここだけ違う時間が流れているんだと思う」

「ねえ、ここ、本当に静かね」
君がそう言って、バルコニーの冷たい手すりに指先を触れた。1月の長崎の夜気は鋭く、吐き出す息が白く濁る。
「うん。外はあんなに賑やかなのに」
「不思議な感じ。あんなに大きなスタジアムがすぐそこにあるのに」
「きっと、ここだけ違う時間が流れているんだと思う」
僕たちはしばらく、言葉を交わさずに夜の光を見つめていた。

喧騒の残響が、二人だけの静寂に溶け合う夜

長崎駅からホテルまで歩くわずかな時間、冬の風が容赦なく頬を刺した。スーツケースのキャスターがアスファルトを叩く規則的な音が、どこか急き立てるように響いていたけれど、スタジアムシティホテル長崎 / STADIUM CITY NAGASAKIのロビーに足を踏み入れた瞬間、その喧騒はふっと消えた。そこにあったのは、洗練された静寂という名の心地よい音響だった。

案内されたスタジアムビューの客室に入り、裸足で踏みしめたカーペットの深い厚みが、足裏からゆっくりと体温を奪っていく。けれどそのひんやりとした感覚が、かえって意識を覚醒させ、僕を窓辺へと誘った。バルコニーから見下ろすスタジアムの光は、まるで街が奏でた巨大な和音が、ゆっくりと減衰していく「残響」のように見えた。激しい歓声や熱狂が、ここでは静かな光の粒となって、部屋の隅々にまで浸透している。そんな景色を眺めていると、僕たちの関係も、もしかしたらこういう風に、激しさよりも静かな余韻を大切にする段階に来たのかもしれない、という気がした。

地下1,500メートルから湧き出るという天然温泉に身を沈めたとき、肌にまとわりつく水の重みが、凝り固まった肩の力をゆっくりと解いてくれた。お湯の温度は絶妙で、肌を包み込む感覚が驚くほど柔らかい。浴室のタイルが足の裏にひんやりと心地よく、立ち上る白い湯気の中で君の横顔をぼんやりと眺めていた。私たちはまだ、お互いの完璧なリズムを分かっているわけではない。ときどき音が外れたり、タイミングがずれたりすることもあるけれど、この静かな空間に身を置いていると、その不揃いささえも一つの心地よい音楽のように感じられた。

ふと、備え付けのバスローブを羽織った僕を見て、君が小さく吹き出した。サイズが少し大きすぎたみたいで、僕はまるで白い大きな雲に包まれたみたいになっていたらしい。そんな些細なことで笑い合える時間が、何よりも贅沢な贈り物に感じられた。部屋でいただいた温かいお茶の香りが鼻腔をくすぐり、口の中でゆっくりと溶ける地元の甘いお菓子の味が、じわりと心に広がっていく。甘さが広がるたびに、日常の緊張がほどけていくのが分かった。何もない空白の時間が、実は一番の意味を持っている。僕たちはただ、同じ空間で、同じ温度の空気を吸い、同じ光を見ていた。それだけで、十分すぎるほど満たされていた。

夜の帳が下りたスタジアムの光が、枕元まで静かに届いていた。

  • 温泉から上がった後、二人で温かいお茶を飲みながら、あえて何も話さない時間を過ごしてみて。
  • バルコニーで、スタジアムの光がゆっくりと消えていくのを、肩を寄せ合って眺めてほしいな。