濡れたアスファルトの匂いが、冷たい風に乗って鼻腔をくすぐる。地下鉄「烏丸御池」の出口からホテルまで、歩いてわずか1分という短すぎる距離。開花予想を誰よりも熱心にチェックしていたはずの友人が、あろうことか傘を忘れていた。しっとりと濡れた彼の肩を見て、私たちは同時に吹き出した。そのコンマ数秒のラグさえも、旅の心地よいリズムに溶け込んでいく。
深夜3時、静寂に包まれた24時間ラウンジ。焼きたてのデニッシュが放つ、濃厚なバターの香りが空間を支配している。指先に伝わるわずかな熱と、口の中で軽やかに崩れるサクサクとした快感。誰かが小さく「美味しい」と漏らした声が、夜の静寂に波紋のように広がっていく気がした。
「桜、全然咲いてないじゃん」誰かが呆れたように呟いた。返事はなかった。だって、開花予想を過信して私たちを無理やり早起きさせたのは、他ならぬその本人だったから。言い訳をしようとして金魚のように口をパクパクさせている彼の顔が、たまらなく滑稽で。正解を出すことより、この気まずい沈黙を共有することこそが、旅の醍醐味なのだと思う。
SAKEサーバーの前で、誰が一番「通」な顔をして飲めるかという、くだらない賭けが始まった。グラスに液体が注がれる、低く心地よい水音。一口含んだ瞬間、全員が同時に、酸っぱい梅干しを食べたような顔をした。結局、誰が正解だったかなんてどうでもよくて、ただその滑稽な表情の連鎖に、お腹を抱えて笑い転げた。
オーバーヘッドシャワーから降り注ぐ、圧倒的な量の水。ぬるま湯が肩を叩く感覚は、まるで温かい雨のカーテンの中に立っているみたいだ。皮膚の表面から芯まで、ゆっくりと熱が浸透し、凝り固まった緊張がほどけていく。思考が空白になり、ただ水の重さだけを感じているとき、ようやく本当の自分に戻れた気がした。
壁にそっと指先を触れる。デニム素材のざらついた無骨な感触と、和柄の滑らかな質感が、不思議な調和を持って隣り合っている。insomnia KYOTO OIKEのこの大胆なミックススタイルは、バラバラな性格の私たちが、なんとか折り合いをつけて旅をしている今の状態に似ているのかもしれない。
街角で偶然見かけたひな人形の展示。静謐な空気の中で、完璧な秩序を持って並ぶ人形たちの視線。私たちはわざと、その張り詰めた静寂を壊すように、くだらない冗談を言い合った。「人形に怒られるよ」と誰かが囁いたけれど、その不謹慎さが、今の私たちにはちょうどいい温度だった。
superior doubleのベッドに深く体を沈める。シーツのひんやりとした冷たさが、体温でゆっくりと塗り替えられていく。明日の予定なんて、もうどうでもいい。また迷子になって、また誰かのせいで笑い合えばいい。そんなふうに思える夜があるのは、きっとこの場所が、私たちの不完全さを優しく許してくれているからだろう。
枕元に置いたグラスに残る、わずかな酒の香りと、遠くで鳴る車の音。
- 深夜のラウンジでデニッシュを頬張りながら、明日の予定を全部白紙にする贅沢を味わって。
- オーバーヘッドシャワーの雨のような水流で、京都歩きの疲れをリセットしてみて。