← 戻る HOTEL M's PLUS SHIJO OMIYA

濡れたアスファルトと、誰かの笑い声

濡れたアスファルトと、誰かの笑い声

同じ夕暮れ、二つの記憶

(Aの視点)
駅からの道を歩きながら、私はずっと時計を気にしていた。予定では17時までにチェックインして、そこから夕食の店へ向かうはずだった。でも、隣で「見て、この藤の花、色が濃いね」と足を止める友人のペースに、私の計画はどんどん溶けていった。ホテルエムズ・プラス四条大宮のロビーに入ったとき、冷房の乾いた風が頬を撫でて、ようやく現実に戻った気がした。クイーンルームのドアを開けると、160センチのベッドが真っ白な静寂を湛えて待っていた。私はまず、カバンを整理して、明日使うものを並べた。整えることでしか、この旅をコントロールできない気がしたから。


(Bの視点) Aが隣で「あと何分で着くか」を計算しているのが分かった。その緊張感がなんだか可笑しくて、わざとゆっくり歩いた。5月の京都の空気は、湿り気を帯びた新緑の匂いがして、呼吸するだけで肺の中が洗われるみたいだった。ホテルエムズ・プラス四条大宮に滑り込んだとき、真っ先に目に飛び込んできたのは、想像以上に清潔でミニマルな空間。私たちはどちらが先にベッドにダイブするか、言葉もなく賭けをした。私が勝った。シーツのパリッとした感触が肌に張り付き、心地よい冷たさが全身を包み込む。Aがため息をつきながら荷物を整理し始める横で、私はただ、この空白のような時間に身を任せていた。

同じ食事、二つの味覚

(Aの視点)
四条大宮の路地裏で見つけた小さなおばんざい屋。運ばれてきた出汁巻き卵は、箸で触れた瞬間にじゅわっと水分が溢れた。温度はちょうどよく、口の中で淡い出汁の味がゆっくりと広がっていく。隣で友人が「これ、マジで最高」と騒いでいるけれど、私はその味よりも、器の縁にある小さな欠けや、店内に漂う古い木の匂いに意識が向いていた。味覚というよりも、その場の温度や湿度を食べているような感覚。控えめな塩味が、旅の緊張を少しずつ解いていくのが分かった。結局、何を話したかは覚えていないけれど、あの出汁の温度だけは、今でも指先に残っている。


(Bの視点) とにかく笑った。Aが真剣な顔で出汁巻き卵の「構造」について分析し始めたとき、私は吹き出した。だって、そんなことより、この卵のふわふわ感と、一緒に頼んだ冷たい日本酒のコントラストが完璧だった。口の中に広がる甘みと、喉を通る時のキリッとした冷たさ。それが交互にやってくる快感。店内の喧騒が心地よいBGMになっていて、私たちは互いの失敗談を肴に、グラスを何度も空にした。味の記憶というより、あの時の笑い声の響きや、テーブルの下で足がぶつかった瞬間の気まずい沈黙。そういう断片的なものが、私にとっての「京都の味」になった気がする。

私たちが唯一同意したこと

水と油のように、計画的な私と、流れに身を任せる友人。私たちは旅の間、何度も小さな衝突を繰り返した。それはまるで、混ぜ合わせようとしても分離してしまうエマルションのようだった。けれど、ホテルエムズ・プラス四条大宮に戻り、シャワーを浴びて、同じベッドに身を投げ出したとき、不思議と境界線が消えていた。私たちが唯一、激しく同意したのは、あのシャワーの水圧と温度が完璧だったということだ。指先から足の裏まで、一日の疲れを丁寧に削ぎ落としてくれるお湯。裸足で踏んだタイルのひんやりとした温度が、火照った体を落ち着かせてくれる。豪華な設備があることよりも、深夜3時にふと目が覚めて、隣で誰かが静かに寝息を立てているという安心感。そんな、名付けようのない心地よさがそこにはあった。私たちは結局、正解なんてどうでもいいし、迷子になった時間こそが一番贅沢だったのだと、言葉にせずとも理解し合っていた。


窓の外で、遠くの電車の音が夜の静寂に溶けていく。
  • 嵐電の四条大宮駅からホテルまで、あえて一本裏道を歩いて、名もなき路地の空気を吸ってみること
  • クイーンルームの広いベッドで、あえて何もせず、5月の京都の湿った風を窓から感じること