← 戻る 京都センチュリーホテル

午前二時のティーカップから、静かに湯気が昇っていた

午前二時のティーカップから、静かに湯気が昇っていた

「地図が逆だって、誰か言ってよ!」

「いや、君が自信満々にこっちだって言ったじゃん!」誰かが呆れたように笑い、パサリと紙の地図が閉じられる乾いた音が路地に響く。十月の京都、肺の奥まで届く冷たい空気が、火照った頬を心地よく撫でた。時代祭の華やかな行列に巻き込まれ、予定していたルートを完全に失った私たちは、結果的に誰も知らない迷路のような細い路地をさまよっていた。
「マジで信じられない。私たちのナビゲーション能力、絶望的に低すぎない?」
「いいじゃん、おかげでこんなに趣のある路地裏カフェ見つけたし。まあ、予定にはなかったけどさ」
誰かが肩をすくめ、互いの不手際を賑やかになじり合う。秋の陽光が石畳に長い影を落とし、どこからか漂うお香の香りが、迷子であることさえも旅の贅沢に変えてくれた。

喧騒を飲み込む、緑の静寂

京都センチュリーホテルに足を踏み入れた瞬間、外の喧騒がふっと塗り替えられた。ロビーに漂うのは、どこか懐かしく、それでいて研ぎ澄まされた静寂。それは、古い石垣の隙間にゆっくりと広がっていく深い緑の苔が、街の騒音という硬い輪郭を柔らかく、静かに飲み込んでいく感覚に似ていた。

案内されたお部屋に入ると、まず目に飛び込んできたのは、包み込まれるような安心感を湛えた空間だった。シモンズ製ゴールデンバリュー・ピロートップマットレスにどさっと身を投げ出したとき、雲に抱かれたような心地よい沈み込みが、一日中張り詰めていた肩の力をふっと抜いてくれた。床に置かれた木製スリッパに足を滑り込ませると、木の温もりが足裏からじわりと伝わり、心まで解きほぐされていく。

バスルームでは、カタルノ製の陶器製ベーシンが白く気高く光り、カルデヴァイのホーロー製バスタブに体を沈めれば、お湯の温度がちょうどよく、歩き回った足の疲れがゆっくりと溶け出していくのがわかった。ひんやりとしたタイルの感触と、対照的な湯気の温もり。ここでは、何もしないことが最も贅沢で能動的な過ごし方になる。

翌朝、訪れた「ラジョウ」の劇場型ビュッフェは、食事の場というより、色鮮やかな食材が主役となって演じるステージのようだった。ライブキッチンから立ち昇るバターの香ばしい匂いと、秋の味覚をあしらったスイーツの繊細な色彩。小川珈琲のオーガニックコーヒーを一口啜ると、深い苦味が意識をゆっくりと覚醒させてくれる。京都駅まで徒歩二分という至近距離にありながら、ここにあるのは、完全に切り離された別世界の時間だった。

眠れない夜の、小さな本音

「ねえ、本当は一人で来たいなって思ったこと、ない?」
深夜二時。部屋の明かりを落とし、間接照明だけが淡く壁を照らしている。グラスの中で氷がカランと鳴る音が、心地よい静寂を刻んでいた。
「あるよ。でも、一人だったらこのスリッパを左右逆に履いてた件で笑い合う相手がいなかったし、結局、今みたいに目的もなくダラダラ喋るのが一番楽しい気がする」
「ふーん。まあ、そうかもね」
昼間の賑やかな口論が嘘のように、言葉の温度が下がり、代わりに密度が増していく。私たちは、普段は口に出さないような、少しだけ心細い将来の話や、誰にも言えない小さな後悔を、夜の闇に溶かすように話し合った。正解なんてないけれど、この空間に一緒にいていいという絶対的な安心感が、冷えた指先を温めてくれた。言葉にならない感情が、心地よい沈黙となって部屋を満たしていく。

カーテンの隙間から、夜明けを告げる淡い青色の光が静かに忍び込んできた。

  • 京都駅からの徒歩二分の道を、秋の冷たい空気を吸い込みながらゆっくり歩いてみてください。
  • 「ラジョウ」のビュッフェでは、食材のピクトグラムを楽しみながら秋の盛り合わせを。