← 戻る 京都センチュリーホテル

濡れたスニーカーが廊下で鳴らしていた音

濡れたスニーカーが廊下で鳴らしていた音

濡れたコットンの重みが肩に食い込み、雨の匂いが全身を包んでいた。駅を出た瞬間に降り出した激しい雨で、持っていた折りたたみ傘は完全に敗北していた。私たちは誰が一番無惨に濡れているかを競い合うように、ずぶ濡れの靴で笑いながら京都センチュリーホテルへと駆け込んだ。チェックインを待つ間、ロビーに漂う乾いた温かい空気と、自分たちの湿った服のコントラストが、なんだか可笑しくてたまらなかった。



ライブキッチンのフライパンが弾ける快い音が、まるで小さな劇場の拍手のように響く。シアタービュッフェで、黄金色に焼き上がるオムレツを待つ時間。濃厚なバターの香りが鼻をくすぐり、空腹が心地よい刺激となって胃を締め付けた。地元の旬を盛り付けた皿を前に、「全部食べ切れるか賭けよう」と冗談を言い合う。結局、デザートまで完食し、心地よい満腹感と疲労感が波のように押し寄せていた。


「駅から徒歩二分って書いてあったじゃん!」と、地図を握りしめていた友人に口を揃えてツッコミを入れた。実際には、雨の中を右往左往して十分はかかった気がする。けれど、そのおかげでガイドブックには載っていない、路地裏の深い水溜まりや、雨に濡れて黒々と光る石畳の艶に気づくことができた。効率的に移動することだけが旅じゃない。迷子になることでしか出会えない景色があることを、私たちは肌で感じていた。


ロビーで大きなスーツケースがぶつかり合い、ガチャンと鈍い音が響く。誰の荷物か分からない黒いバッグが転がっていて、それをみんなで押し合って運ぶという、なんとも不格好な光景。完璧な分刻みのスケジュールを組んできたはずなのに、実際には何も予定通りにいかない。けれど、その「計画外」の空白の時間にこそ、一番大きな笑いが生まれた。それが私たちらしい旅の形なのだ。


ベッドに体を投げ出した瞬間、脊髄まで張り詰めていた緊張がふっとほどける感覚があった。シモンズのゴールデンバリュー・ピロートップのマットレスが、まるで深い海に沈むように、しっとりと体を包み込んでくれる。外ではまだ雨が降り続いているけれど、この部屋の中だけは外界から完全に切り離された静寂に満ちていた。何も考えず、ただ白い天井を見つめている時間が、最高の贅沢なのだと気づかされた。


足元に触れるスリッパの、さらりとした木の質感。バスルームのカルデヴェイのホーロー製バスタブに足を入れたとき、ひんやりとした温度が足裏から伝わり、心地よく意識が覚醒した。上質なソープが指の間で濃密な泡となり、雨の日の湿っぽさを、清潔で凛とした香りに塗り替えていく。皮膚の表面が、ようやく深く呼吸を取り戻したような感覚だった。


ふと雨が止んだ隙に、吸い寄せられるように外へ飛び出した。そこには、雨粒を湛えて深く、どこまでも青く光る紫陽花が咲き誇っていた。誰かが「綺麗だね」と小さく呟いたけれど、言葉にするよりも、ただその静謐な色を眺めている方がしっくりきた。短い静寂のあと、またポツポツと雨が降り始めたけれど、今度は誰も傘を急いで広げようとはしなかった。


チェックアウトのとき、ロビーの大きな窓から外を眺めた。雨上がりの京都の街が、洗われたように透明度を増して見えた。またいつか、同じメンバーで、同じように迷子になってここに戻ってきたい。そう願ったのは、きっと京都センチュリーホテルという場所が、私たちの不器用で騒がしい旅を、静かに、そして温かく受け入れてくれたからだろう。

濡れたままの靴を、最後にもう一度だけ笑いながら眺めた。

  • 朝食ビュッフェのライブキッチンは、早めの時間に行くのが正解。ゆっくり料理を堪能できるよ。
  • 京都駅からの距離は近いけど、雨の日はあえてゆっくり歩いて、街の匂いを楽しんでみて。