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天井の歌と、冷めかけたコーヒーの温度

天井の歌と、冷めかけたコーヒーの温度

5年後の私たちへ。今の私たちは、京都の湿った春の空気を深く吸い込んで、カルタホテル京都別邸の心地よい静けさに身を委ねている。このとき感じた、少しだけ心細くて、でも最高に自由な感覚を、どうか忘れないでいてほしいな。

5年後の記憶に深く刻まれているであろう、四つの断片

天井に舞う百人一首と、深く焙煎されたコーヒーの香り
チェックインした瞬間、視界に飛び込んできた天井の歌。誰が一番早く自分の心に響く歌を見つけられるかという、くだらない賭けに興じたね。「あ、あった!」という歓声が、ロビーに漂う芳醇なコーヒーの香りと混ざり合い、見上げる首の痛みさえ心地よかった。柔らかな光が降り注ぐ空間で、ただ上を向いて笑い合ったあの奇妙な一体感は、きっと消えない。

畳のひんやりとした感触と、ほどけていく心
桜の道を歩き尽くし、足の裏がじんわりと熱を帯びていたとき。部屋に戻り、裸足で畳を踏んだ瞬間の、あの凛とした冷たさと、い草の懐かしい香り。もこもことした畳の質感が、一日中張り詰めていた緊張をゆっくりとほどいていく感覚に、「ああ、やっと戻ってきた」と心から安堵した。誰が最初に寝落ちするかという賭けに、私が完敗したこともセットで覚えているはず。

ガーデンビューの窓辺まで、ゆっくりと数えた歩数
広々とした部屋の中で、ベッドから窓まで何歩かかるか、わざとゆっくり歩いて数えてみたこと。窓の外の庭では、春の風がいたずらに吹き抜け、淡い桜の花びらが不規則な舞を踊っていた。特に何をするでもなく、ただ「ここにいていい」という静かな肯定感に包まれていたあの距離感は、今の私たちにとって、人生に不可欠な「空白」のような時間だったのかもしれない。

深夜3時のコンビニスイーツと、秘密の共犯関係
ふかふかのクッションチェアに深く沈み込み、コンビニで買い込んだお菓子を分け合った夜。誰かが「明日は早起きして朝粥を食べよう」と呟いたけれど、結局は夜通し、将来の不安や今の不満をとりとめもなく話し合ったね。甘いチョコレートの味と、深夜特有のしんと静まり返った空気。部屋の広さが、私たちの不器用な言葉をすべて優しく受け止めてくれていた気がする。

五年後の私たちが、この記憶の封印を解くとき

記憶とは、和紙に落とした一滴のインクのようなものかもしれない。最初は鮮やかな色で輪郭もしっかりしているけれど、時が経つにつれ繊維に沿ってゆっくりと滲み、やがて境界線は曖昧になっていく。どの歌を天井に見たか、誰がどの菓子を多く食べたかという事実は、きっと滲んで消えてしまうだろう。けれど、インクが染み込んだ場所の質感が永遠に変わるように、「誰かと一緒にいて、心地よく孤独でいられる」というあの感覚だけは、私たちの心に深く定着しているはずだ。もしかしたら、5年後のあなたは、今の私よりもずっと大人びていて、こんなくだらない賭けを笑うのかもしれない。けれど、その笑いの中に、あの日の春の風が混じっていることを願っているよ。

冷たい水で洗った指先に、まだかすかに桜の香りが残っている。

  • ロビーのコーヒーを飲みながら、天井の百人一首から「今の自分を救う一首」を探してみて。
  • 畳の部屋ではあえて靴下を脱ぎ、足裏で春の温度を感じながら、贅沢に時間を使い切ってほしい。