浴衣の帯を締める時の、あの少しだけ窮屈な摩擦感。ざらりとした生地が指先に触れ、もどかしさが募る。誰が一番先に結び方を間違えるか賭けていたけれど、結局三人とも途中で諦めてスタッフさんに頼った。あの時の、お互いの不器用さを笑い合った空気感は、今思い出しても、冬の陽だまりのように心地よくて可笑しい。
湯畑の近くで買った、焼きたての温泉まんじゅう。指先に伝わる熱さと、口の中でとろける甘い餡の重み。立ち上る白い湯気に包まれ、眼鏡が真っ白に曇って、隣にいる友達の顔がぼやけて見えなくなった。その状況で「なんか、今のあなた、幽霊みたい」と呟いた誰かの声が、しっとりと湿った夜の空気に溶けていった。
「その色の浴衣、正直に言って、歩くお菓子みたいじゃない?」なんて、わざと意地悪な言い方で笑い合う。鮮やかな色彩が街の灯りに照らされ、賑やかに揺れている。本当は似合っていると分かっているけれど、素直に言うのは気恥ずかしい。私たちは、そういう不器用なコミュニケーションでしか、本当の親しさを表現できないのかもしれない。
亀の井ホテル 草津湯畑のゲームコーナーで、卓球の球が弾ける乾いた音。ピン、ポン、という規則的なリズムが、いつの間にか激しい競争に変わっていた。負けた方が明日の朝食の買い出しを全部やるという、どうでもいいルール。本気で勝ちにいこうとする友達の、なりふり構わない必死な顔が、最高に滑稽で愛おしかった。
午前7時の空気は、透き通るような青色をしていた。高台にある部屋の窓を開けると、街の喧騒が遠くの波音のように心地よく響いてくる。まだ誰にも邪魔されていない、深い静寂。冷たい空気が肌を撫でる感覚があるけれど、それが心地よくて、しばらくの間、私たちは言葉を交わさずに、白根山の稜線を眺めていた。
デラックス和室ツイン10畳のマットレスベッドに体を沈めたとき、シーツのひんやりとした冷たさが背中に心地よく張り付いた。い草の清々しい香りと、現代的なベッドの感触が同居している不思議な空間。トイレまで歩く歩数が、なんとなく心地よい距離感で、この部屋の広さが、私たちのちょうどいい関係性に似ているなと感じた。
七夕の短冊に、誰にも言えないような、どうでもいい願い事を書き込んだ。夜空に上がる花火の、あの胸に響く低い振動と、鼻腔をかすめる火薬の匂い。隣で誰かが「来年もまた、同じようにくだらないことで喧嘩しよう」と呟いた。それは、どんな誓いよりも深い信頼がこもった言葉に聞こえた。
お風呂上がりの肌に残った、かすかな硫黄の香りと、芯からじんわりと温まった感覚。濡れた髪が首筋に触れる冷たさと、それとは対照的な体の熱。完璧な計画なんてなくても、ただここに一緒にいるだけで十分だったのかもしれない。湯煙に包まれた記憶が、ゆっくりと心に染み込んでいく。
夜の湯畑を歩く、不揃いな三足の下駄の音。
- 湯畑まで歩く3分間、あえて迷路みたいに路地裏を探索してみて。意外な景色があるから。
- ホテルの卓球で本気で勝ちにいって。負けた時の悔しさが、旅の最高のスパイスになるよ。