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湯けむりの向こうで、誰かが笑っていた

湯けむりの向こうで、誰かが笑っていた

ホテル一井で試した「大人の余裕」検証レポート

シモンズベッドで「誰が一番早く寝落ちするか」を賭けた件
真っ白なリネンの清潔な香りに包まれ、「大人の夜の語らい」を計画したはずが、雲に深く沈み込むようなマットレスの快感に抗えず、三人とも15分で意識を喪失。心の中で「絶対に負けない」と意気込んだのも束の間、心地よい重力に身を任せた結果、勝者なしの全員敗北という、贅沢すぎる大惨事で幕を閉じた。

湯畑側エグゼクティブルームの大型プロジェクターで「映画のような夜」を演出した件
暗闇に浮かぶ鮮やかな光と、かすかに聞こえる機械の駆動音が、部屋をプライベートシアターに変えてくれた。映画の深遠なテーマを分析し合うはずが、気づけば登場人物のファッションにひたすらダメ出しをするという低レベルな批評会に発展。物語を完走した記憶はないが、笑いすぎて腹筋が崩壊した時間は、どんな名作よりも鮮烈に記憶に刻まれた。

電気暖炉の前で「洗練されたティータイム」を演じようとした件
揺らめくオレンジ色の光と、挽きたてのコーヒーの香ばしい香りに包まれ、静かに読書に耽るという完璧なプランを立てた。けれど、暖炉のぬくもりに誘われて気づけば三人で床に座り込み、お菓子を散らかして昨日の失敗談を言い合う泥臭い時間に。洗練とは程遠かったが、肌を撫でる温もりが、僕たちの心の緊張をちょうどよく解きほぐしてくれた。

湯畑一望客室の窓から「完璧な一枚」を撮ろうと格闘した件
鼻を突く強い硫黄の香りと、11月の肌を刺すような鋭い冷気。最高の構図を狙ってシャッターを切り続けたが、結露した窓ガラスがフィルターとなり、撮れたのは正体不明の白い塊ばかりだった。けれど、そのぼやけた写真を見たとき、あの日感じた外気の鋭さと湯けむりの濃密さが鮮明に蘇り、完璧な写真なんてこの街には必要なかったのだと気づかされた。

旅の感情スコアボード

結局、一番価値があったのは「計画通りにいかなかったこと」だ。ホテル一井の重い扉を開けた瞬間、外の冷気を塗り替えるような濃密な温もりが身体にまとわりついた。それはまるで、乾いた画用紙にゆっくりと水を含ませ、そこに深い色のインクを落としたときのように、心地よい温度がじわじわと心まで滲み出していく感覚。豪華な設備に囲まれながら、中身は相変わらずの僕らでいられる。そのギャップこそが、この旅の最大のハイライトだった。

靴を脱ぎ、温かい畳に足をついた瞬間のあの安らぎを、ずっと忘れない。

  • 湯畑の湯けむりが最も濃くなる早朝、あえて何も喋らずに10分間だけ景色を眺めてみて。
  • 部屋の電気暖炉の前で、あえて人生で一番くだらない悩み事を相談し合う矛盾を楽しんで。