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湿ったアスファルトの匂いと、誰かの笑い声

湿ったアスファルトの匂いと、誰かの笑い声

深夜の自動販売機が低い唸りを上げていた。どちらが先に飲み物を買うか賭けたけれど、結局二人とも迷って、ぬるくなったお茶を分け合った。THE BLOSSOM KUMAMOTOのロビーに足を踏み入れた瞬間、山鹿灯籠をモチーフにした柔らかな光が、雨上がりの肌にまとわりつく不快な湿気をふわりと消し去ってくれた。高い天井に、スーツケースを引く乾いた音が心地よく跳ね返っている。



朝7時のレストラン。大きなガラス越しに差し込む白金色の光が、プレートの上に並んだ色鮮やかな野菜を宝石のように照らしていた。阿蘇の恵みが凝縮されたブッフェで、「どっちがより意識高い系の盛り付けができるか」という不毛な競争が始まる。口の中で弾ける地元の旬の食材の瑞々しさが、まだ眠い意識をゆっくりと、けれど確実に呼び覚ましていく。


浴衣の帯を締めようとして、盛大に失敗した。布がぐちゃぐちゃに絡まり、もはや何が正解かわからない友人を見て、「今の、完全に包みご飯になってるよ」と笑い転げた。鏡の前で格闘すること30分。結局、誰に教わったかもわからない適当な結び方になったけれど、それが逆に「私たちらしい」気がして、そのまま街へ繰り出した。


祭りの屋台がひしめく路地。ソースが焦げる香ばしい匂いと、人々の熱気が混ざり合い、空気が濃密に感じられた。一番人気の店に並ぶこと1時間。やっと手に入れた焼きそばを、汗だくになりながら頬張る。高級なディナーよりも、この不便で暑い、けれど心躍る時間が、何よりも贅沢に思えた。


大浴場の湯船に身を沈めたとき、外の喧騒が遠い記憶のように消えていった。絶妙な温度のお湯が、凝り固まった肩の力をゆっくりと解き、水の中に溶かし出していく。耳に届くのは、かすかな水音と、自分の鼓動だけ。誰とも喋らずに、ただお互いの呼吸のタイミングが合うのを待っているような、凪のような時間が流れていた。


スタンダードルームに戻り、エアコンの冷気が心地よく肌を刺す。ベッドに大の字になって、天井の真っ白な空間をぼんやりと眺めた。JR熊本駅から歩いて1分という都会の喧騒のど真ん中にいるのに、ここだけは別の時間軸に迷い込んだみたいだ。隣で寝息を立て始めた友人の、不規則なリズムが心地よいBGMになっていた。


夜空に大きな花火が咲いた瞬間、視覚よりも先に、身体の芯を震わせる重い音がやってきた。光と音のわずかなズレ。その空白に、私たちは同時に「すごい」と呟いた。THE BLOSSOM KUMAMOTOの展望デッキから見下ろす夜景は、街の灯りと花火の残響が混ざり合い、幻想的な色彩を放っていた。


帰り道、サンダルの底から伝わるアスファルトの熱が、旅の終わりを静かに告げていた。完璧なプランなんてなかったし、些細なことで喧嘩しそうになったけれど、それでもいい。この街の湿った空気と、不器用な笑い声が、心の中でリバーブのようにいつまでも鳴り続けている。

濡れた路面に、最後の一発の花火が鮮やかに映っていた。

  • 浴衣で歩くときは、歩幅を小さくするのが正解。じゃないと裾を全部踏んじゃうよ。
  • 朝食の地元のフルーツは絶対に食べて。あの濃い甘さは、熊本でしか味わえないから。