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月が明るすぎて、真面目な話にならなかった夜

月が明るすぎて、真面目な話にならなかった夜

溶けかかったアイスがスニーカーの白い部分にポタリと落ちた。それを拭き取るよりも先に、誰かが吹き出して、連鎖的に笑いが止まらなくなったあの瞬間から、私たちの九月は始まったのかもしれない。

私たちの「迷走」を静かに見守っていた五つのもの

  • 館内着のパジャマ: ほどよく厚みのある綿の質感と、どこか懐かしい洗剤の香り。誰が結んでも心もとなく緩んでしまう帯の結び目。夜食に何を注文するか、三十分かけて結論が出なかった私たちの、あの締まりのない議論と、ふふっと漏れた笑い声をすべて記憶しているはずだ。
  • サウナのタイマー: 赤いデジタル数字が無機質に刻む、逃げ場のない時間。もわっとした檜の香りと、肌を刺すような熱気。誰が一番長く耐えられるかという、大人のすることとは思えない低レベルな賭けに、このタイマーは静かに、そして冷徹に付き合っていた。
  • 水風呂の波紋: 15度という、心臓が跳ね上がるほどの冷たさ。皮膚が粟立ち、肺の空気が一気に押し出されるあの感覚。同時に飛び込んだ三人の、揃いすぎた悲鳴のような吐息と、激しくぶつかり合った水しぶきを、水面は小さく揺れて受け止めていた。
  • 13階の窓ガラス: 指先で触れるとひんやりとしていた、夜の境界線。ガラス越しに見える熊本の街の灯りと、不自然なほど白く光る九月の月。お互いの弱みをさらけ出そうとして、結局誰かがくだらない冗談を言って台無しにした、あの気まずい沈黙と、その後の爆笑を反射していた。
  • ベッドの白いシーツ: 洗剤の清潔な香りと、ピンと張った冷たい感触。和洋室の畳の香りがかすかに混じる空間で、熊本城まで歩き尽くして泥のように崩れ落ちた私たちの重み。「明日こそは計画通りに動こう」と誰かが呟いた誓いと、すぐに深い眠りに落ちた心地よい脱力感を包み込んでいた。

もしこの部屋の壁が喋れたなら

きっと彼らは、私たちを「騒がしいけれど、どこか不器用なリズムを刻む集団」と呼ぶだろう。旅の間ずっと、誰かが言い間違え、それを誰かが拾って笑い、結果的に目的地とは違う方向に歩いていった。「あれ、ここどこ?」という困惑さえも、心地よいBGMのように流れていた。地元の店で食べた唐辛子蓮根の、鼻に抜ける強烈な刺激に、三人で同時に悶絶して水をがぶ飲みしたあの時間。そんな、誰にも見せるつもりはない、かっこ悪い瞬間こそが、この旅の本当の輪郭だった。

サウナの熱気から水風呂へ飛び込む瞬間の、あの意識が空白になるタイムラグ。それは、誰かが冗談を言ってから、全員がそれに気づいて笑い出すまでの、あの絶妙な「間」に似ている。正解を求めるのではなく、ただその空白を一緒に共有していること。ドーミーイン熊本の十三階で、私たちはそんな当たり前で、けれど贅沢な時間を過ごしていた。誰かが「もう一回サウナ行こう」と、とろけた声で言い出したとき、私たちはもう、完璧な旅なんてどうでもいいと思っていた。

月明かりに照らされた三人の影が、廊下で不格好に重なっていた。

  • サウナ後の外気浴スペースで、あえて何も喋らずに夜空を眺めてみることをおすすめします。
  • 早朝の澄んだ空気の中、ホテルから熊本城までゆっくり歩いてみるのも、いいリズムになります。